TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

ヨーロッパ企画の奇跡に立ち会え!サマータイムマシン・ブルースとワンスモア

ヨーロッパ企画の「サマータイムマシン・ブルース」の再演と、新作の「サマータイムマシン・ワンスモア」を人類の活動領域でなくなった炎暑の京都で2日続けて観てきた。2日続けて芝居を観るというのは相当な贅沢であるが、それが過去の名作の再演とその続編というのはもうこの上ない贅沢だ。

もちろんネタバレはしない。そもそもこれはレビューではない。なぜならこの作品を2日間に渡って観ることができた自分が、いかに幸せであるかを自慢するためにこの文章があるからだ。

一応、前情報を出しておく

ヨーロッパ企画というのは今から20年前に京都で結成された劇団であり、「サマータイムマシンブルース」は2001年初演、その後再演3回、映画化1回を果たした劇団の代表作の一つであり、そして「サマータイムマシン・ワンスモア」はその続編である。そして同時に「ワンスモア」はヨーロッパ企画が歩んだ20年の続編でもある。前作から引き継がれた物語もあるし、前作がなくても楽しめる余裕がある。20年で進み続けた時間と発想と世界観が、ワンスモアに凝縮されている。これは奇跡を観ているのと同じことだろう。

例えば「タイムパトロール」「バタフライエフェクト」「恒時法」「タイムパラドックス」「シンギュラリティ」「ドローン」こんなキーワードを目にしてニヤニヤしてしまう人は、ヨーロッパ企画経験者でも未経験者でもこの作品に飲み込まれるはずだ。

続編の「ワンスモア」の感想を言葉にすることはかなり難しい。エモいといえば簡単だが、人に伝えるための言葉を知恵熱を出しつつ選ぶなら、この芝居を観るためだけにこの夏が存在していて、この作品が生まれたことはヨーロッパ企画が20年かけて絞り出してきた魅力を結晶化して、それで琵琶湖疏水を建てたくらいの偉業だ。

以前に来てけつかるべき新世界を傑作と呼んだが、今回はそれを簡単に飛び越えた最高傑作だ。モンドセレクションなんて画一的な評価は不釣り合いだ。過去の作品を全部ミキサーで混ぜて大鍋で煮詰めてガラス瓶に詰めてヨーロッパハウスで20年寝かせたような、まるで美味しいところを美味しく食べるために「食べるラー油」が発明されてしまった時のような、幸せがオーバーフローしてしまう作品であった。

ひとまず出演者の話をしよう。

ワンスモアは、ブルースから15年後が舞台である。ヨーロッパ企画の芝居ではメンバーのキャラクターがある程度固定されているが、作中で15年も経てば当然その属性はさらに先鋭化されている。酒井さんは普通の理系からインテリ研究者になり、永野さんはいじられキャラからこてんぱんキャラになり、土佐さんはクレイジー野郎からサイコ野郎に進化している。見慣れた人には感慨深く、初めて見る人は分かりやすい配役である。個人的には、酒井さんが現代的な時間旅行研究者の最高峰のような役を手に入れたことが心から嬉しい。そして諏訪さんの演技は上手いし、中川さんはもう主役な気がするし、岡島さんはもう天才だ。

そして物語についても述べよう。

「ワンスモア」は「ブルース」よりもはるかに騒がしく、伏線の乱立と伐採が猛スピードで繰り返される。途中でストーリーや理屈がわからなくなっても、すぐに別の伏線を含む物語に移るので悶々とする暇は一切ない。むしろ観るのが忙しいくらいに物語のスピードは速い。何度も戻され、送られる時間やキャラクターと一緒にいるだけで、僕らはアドレナリンでべちゃべちゃ、脳みそはぐにゃぐにゃになってしまう。

もちろん続編とは前編を見た人への単なるファンサービスではない。ただ物語とキャラクターに連続性があるだけだ。しかし前編を見たからこその面白さを、芝居という”生”もので味わうことができるのはなんと贅沢なことだろう。前作の彼の愛は続編でも変わらず、彼女は続編で逞しく、あいつはタイムマシンの仕様上あのままだということを、わざわざ生の芝居で見ることができる。

ここで気づいたことは、2つの贅沢とは贅沢の2倍ではなく贅沢の2乗だということだ。100円と100円をぶつけたら1万円になったとイメージしてもらえれば、そのインパクトが大であることが伝わるだろう。今回は1日2回公演の日もあるが、僕は1日1公演ずつ2日をかけて2本を観た。「ブルース」を観た日の夜は家で物語の続きを考え、翌日の「ワンスモア」では予想と期待のすべてを上回る完成度の高さに喝采するしかなかった。手のひらを叩いて拍手を送ったが、心の中ではガッツポーズをしていた。

もうこれを読まずに公演を観てほしい

映画にしろ演劇にしろ、ここまで物語にのめり込んで観たのはこれが初めてだ。それだけ芝居のライブ感のパワーは強く、ヨーロッパ企画は魅力的ということだろう。でもそれを表現できるだけの言葉がない。だからとりあえず観てほしい。こんなブログを読んでいる場合じゃないんだ。

戯曲本まで出たよ…最高かよ…

サマータイムマシン・ブルース/サマータイムマシン・ワンスモア