TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

4角のむこうから馬たちの足音がやってくる阪神競馬場

<前回のはなし>

4角とは競馬場における最終コーナーのことである。「よんかく」と読みそこからゴールまでの距離は競馬場によって様々だが、阪神競馬場の場合、470mから350mぐらいの直線がゴールまで続いている。

初めての競馬から数カ月がたち、ついに阪神競馬場でもレースが開催される季節になった。何事もライブ感が大事だと信じているものとして、やはり現地で競馬を見ようと阪急の仁川に向かった。仁川駅から競馬場までは直結しているし警備員がそこかしこに立っているので迷う心配はない。何なら競馬新聞を装備しているおじさんの後ろを歩けば梅田のダンジョンからでもたどり着けると思う。

競馬場に入るには入場券が必要だが、事前にネットで購入したQRコードを入口でかざせばスムーズに入場できる。なんだかUSJみたいだ。あと入口がめちゃくちゃでかい。

入場してすぐにパドックがあったのでとりあえず馬を見る。やはり馬は大変かわいい。足音は本当に”パカパカ”と聞こえるし、たまにブルブル鳴いたり馬を引いている人に甘えたりしているのがまた良い。そのかわいさとは裏腹に足回りには筋肉がぎっしり詰まっていて、蹴られたらひとたまりもなさそうだ。

パドックの周りには次の競争の行く末を見極めんとするおじさんや肩車されたちびっ子たちが集まってじっと馬を眺めていた。ちらほら白レンズを担いだ人たちもいて、どうやら馬の写真を撮りに来ているらしかった。この時まで馬写真の界隈があるなんて想像もしていなくて結構驚いた。あと大学生のグループが楽しそうにしてて京都のウインズの殺伐さと対極にいるみたいでこれも以外な光景だった。競馬場って結構楽しいところかもしれない。

パドックを歩いていた馬たちが騎手を乗せてコースに向かうとパドックの人たちも一斉にコースに向かったのでその後に続いてコースの前に移動する。その時ようやく気付いたが、競馬場ってものすごく大きいのだ。スタンド席は幅が200mくらいあるし、高さも6階ぐらいまである。この日は大きなレースの無い日だったので空いていたが、GⅠとか有名なレースの開催日になるとここが満員になるという。もうフェスじゃないか。馬フェス。

ぼけっとしながら綺麗な芝生やデカい建物を眺めているとレースが始まった。数百メートル先から馬の集団がやってくる。パドックのパカパカとした足音とは違い、蹄が地面を叩く鈍い音が一つの塊になって目の前まで迫ってくる。蹄の音とは対照的に馬上の騎手は静かに馬の背に身を預けている。速度は目視で時速50kmぐらいだと思う。原付程度と考えれば普通の速さだけれど、10数頭の馬の群れが突っ込んでくるとなると凄い迫力だ。

馬たちはそのまま目の前を通り過ぎてコースの向こう側へ進んでいく。だんだんと馬の集団が縦長の形になり、数頭ずつの集団になっていく。馬の後ろにいれば風除けやペースメーカーになりそうだから、自転車レースと同じような戦略や作戦が競馬にもあるのかもしれない。

そして最後のコーナー「4角」を回って再び馬たちがやってくる。ここで先頭を取った馬が勝ち馬になる。ばらけていた馬たちが再び1つの大きな集団になり1着でゴールしようと懸命に走っている。ウインズのように応援する声やツッコミも次第に大きくなる。騎手は鞭を打ったり手綱を揺さぶったりして馬を先頭に押し出そうともがいている。いろいろな光景の中で、馬の足音が特に良く聞こえた。蹄が地面をえぐるような”ドドド”という音は、生まれて初めて聞いた音だった。

どの馬が1着なのかは正直コースの最前列だと良く分からない。順位を知りたければスタンドのすこし後ろか、大きなモニターの前で見ていた方がいい。でもあの迫力は最前列にしがみつかなきゃ決して分からなかった。

それから再びパドックで馬を見たりフードコートでカレーを食べたりデータにしがみつくおじさんたちに混ざったりしながら阪神競馬場を堪能して1日が終わった。競馬場は常に清掃されていて清潔だしどこにでも警備員がいるのでとても快適だった。アプリでくじ引きをしたらタオルが当たったし、キャッシュレス用のカードを作ったらネックストラップも貰えた。馬券で大負けしない限りは日がな一日ここで過ごすのも悪くない。ただ大負けしたら取り返すために帰れなくなる可能性もある。万馬券とやらを当てて1度でも脳汁が出たらきっと抜け出せなくなるだろう。

ただそれを差し引いても、ちょっと競馬を好きになった気がする。