TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

ヨーロッパ企画「切り裂かないけど攫いはするジャック」そして誰もがジャックになった

今年もヨーロッパ企画の新作公演を観るため栗東のさきらにやってきた。

今回はジャックが人を攫うミステリーのお芝居だ。大風呂敷を限界まで広げて何度も劇場をコメディで覆いつくしてきた上田誠に果たしてミステリーを書く素養があるのか、そして解決まで描ききることができるのか、なによりコメディしか観ていない僕たちは謎解きを理解することができるのか。いつもと違う緊張感につつまれながらジャックが現れるを待っていた。

観劇後

ジャックはガンガン人を攫っていた。人々が懸命に推理に挑みながらもその裏でジャックは一人、また一人と攫い続けていた。フォレストガンプベトナム戦争で味方を助けるときみたいな攫い方だった。まさに人攫いの王道。「邪魔しないように道を空けてあげなきゃ」と思っちゃうぐらいの攫い方。足元が危なかったら「段差ありますよ」と教えてあげたくなるくらいの攫い方だった。

あんなにポンポン攫うなら新聞がジャックネタを擦り続けるのも当然で、「とりあえずジャックで1ページ埋めといて」みたいに雑に仕事振られそうだし、リーフのようなお出かけ雑誌に編集部員が飛び出し坊やのポーズで切り抜かれて登場するくらいジャックが安パイになってしまっている。

新規IPにはグッズ展開だって必要だ。ジャッククリアファイル、ジャックアクスタ、ジャック缶バッヂ、ジャックスマホケース、ジャックTシャツ、ジャックのラインスタンプが発売され、ジャックがソシャゲとコラボしてキャラ設定がメチャクチャになることだってあるだろう。そしてカップヌードルのCMに起用してもらえたら一人前のコンテンツだ。

そう、ジャックはコンテンツなのだ。みんないつも「次は誰を攫うのか」と期待し、攫われた翌日は「どんな攫い方だったのか」を推理する。そうやってジャックはいつの間にかキャラクターとして認知され、サンリオキャラクター大賞にエントリーし、人攫いの起きた現場はTikTokを取る若者で溢れ、いつの間にかジャック界隈として認知され、海外では歪んだネットミームになり、Youtubeのゆっくり解説動画にされていく。

そして半年もすれば誰もジャックの話をしなくなる。そのころには新しいジャックが出てきているはずだからだ。大食い系ジャックとか、料理系ジャックとか動物飼育系ジャックとか。そして最後にマツコ・デラックスが「ジャックだけでこんなにいんの!?」とコメントして、ようやくブームが下火になっていく。

そして月日は流れ、かつて人攫いジャックが跋扈していた街は今どうなっているのか。廃墟系ジャックがその街を訪れてみると……

感想

物語としてはミステリーとコメディが両方楽しめて大満足だった。藤谷さんはメチャクチャセリフが多いし、金丸君は主人公力があるし、中川さんは早々に登場してきて出番も沢山あったし、岡嶋さんはすごく声がでかい。トークやシチュエーションで笑うよりも、演者の動きが多くて見ていてとても楽しい。ミステリーはみんな頭の中で考えたり、その場で話したりするだけなのではと心配していたが、名探偵コナンに負けず劣らずみんな現場を走り回っていた。きちんと演者が客席に語り掛けるし、なんだかお芝居を見ているようだった。

ミステリーだからネタバレになるようなことは特に避けなきゃいけないけれど、一つだけヒントを伝えられるなら、「手掛かりは必ず現場にある」ということだろうか。

みんなは誰がジャックか分かるかな?さあ早く見に行こう。見に行かない子のところにはジャックが来るぞ!!!

 

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4角のむこうから馬たちの足音がやってくる阪神競馬場

<前回のはなし>

4角とは競馬場における最終コーナーのことである。「よんかく」と読みそこからゴールまでの距離は競馬場によって様々だが、阪神競馬場の場合、470mから350mぐらいの直線がゴールまで続いている。

初めての競馬から数カ月がたち、ついに阪神競馬場でもレースが開催される季節になった。何事もライブ感が大事だと信じているものとして、やはり現地で競馬を見ようと阪急の仁川に向かった。仁川駅から競馬場までは直結しているし警備員がそこかしこに立っているので迷う心配はない。何なら競馬新聞を装備しているおじさんの後ろを歩けば梅田のダンジョンからでもたどり着けると思う。

競馬場に入るには入場券が必要だが、事前にネットで購入したQRコードを入口でかざせばスムーズに入場できる。なんだかUSJみたいだ。あと入口がめちゃくちゃでかい。

入場してすぐにパドックがあったのでとりあえず馬を見る。やはり馬は大変かわいい。足音は本当に”パカパカ”と聞こえるし、たまにブルブル鳴いたり馬を引いている人に甘えたりしているのがまた良い。そのかわいさとは裏腹に足回りには筋肉がぎっしり詰まっていて、蹴られたらひとたまりもなさそうだ。

パドックの周りには次の競争の行く末を見極めんとするおじさんや肩車されたちびっ子たちが集まってじっと馬を眺めていた。ちらほら白レンズを担いだ人たちもいて、どうやら馬の写真を撮りに来ているらしかった。この時まで馬写真の界隈があるなんて想像もしていなくて結構驚いた。あと大学生のグループが楽しそうにしてて京都のウインズの殺伐さと対極にいるみたいでこれも以外な光景だった。競馬場って結構楽しいところかもしれない。

パドックを歩いていた馬たちが騎手を乗せてコースに向かうとパドックの人たちも一斉にコースに向かったのでその後に続いてコースの前に移動する。その時ようやく気付いたが、競馬場ってものすごく大きいのだ。スタンド席は幅が200mくらいあるし、高さも6階ぐらいまである。この日は大きなレースの無い日だったので空いていたが、GⅠとか有名なレースの開催日になるとここが満員になるという。もうフェスじゃないか。馬フェス。

ぼけっとしながら綺麗な芝生やデカい建物を眺めているとレースが始まった。数百メートル先から馬の集団がやってくる。パドックのパカパカとした足音とは違い、蹄が地面を叩く鈍い音が一つの塊になって目の前まで迫ってくる。蹄の音とは対照的に馬上の騎手は静かに馬の背に身を預けている。速度は目視で時速50kmぐらいだと思う。原付程度と考えれば普通の速さだけれど、10数頭の馬の群れが突っ込んでくるとなると凄い迫力だ。

馬たちはそのまま目の前を通り過ぎてコースの向こう側へ進んでいく。だんだんと馬の集団が縦長の形になり、数頭ずつの集団になっていく。馬の後ろにいれば風除けやペースメーカーになりそうだから、自転車レースと同じような戦略や作戦が競馬にもあるのかもしれない。

そして最後のコーナー「4角」を回って再び馬たちがやってくる。ここで先頭を取った馬が勝ち馬になる。ばらけていた馬たちが再び1つの大きな集団になり1着でゴールしようと懸命に走っている。ウインズのように応援する声やツッコミも次第に大きくなる。騎手は鞭を打ったり手綱を揺さぶったりして馬を先頭に押し出そうともがいている。いろいろな光景の中で、馬の足音が特に良く聞こえた。う蹄が地面をえぐるような”ドドド”という音は、生まれて初めて聞いた音だった。

正直どの馬が1着なのかはコースの最前列だと良く分からない。順位を知りたければスタンドのすこし後ろか、大きなモニターの前で見ていた方がいい。でもあの迫力は最前列にしがみつかなきゃ決して分からなかった。

それから再びパドックで馬を見たりフードコートでカレーを食べたりデータにしがみつくおじさんたちに混ざったりしながら阪神競馬場を堪能して1日が終わった。競馬場は常に清掃されていて清潔だしどこにでも警備員がいるのでとても快適だった。アプリでくじ引きをしたらタオルが当たったし、キャッシュレス用のカードを作ったらネックストラップも貰えた。馬券で大負けしない限りは日がな一日ここで過ごすのも悪くない。ただ大負けしたら取り返すために帰れなくなる可能性もある。万馬券とやらを当てて1度でも脳汁が出たらきっと抜け出せなくなるだろう。

ただそれを差し引いても、ちょっと競馬を好きになった気がする。

 

競馬好きは全員テニプリの乾だと思っている

30代になって初めて競馬をやってみた。FXとCFDを除けば生まれて初めてのギャンブルである。競馬の知識なんてウマ娘を少しかじった程度だから、「中山の直線が短い」と「仁川には坂がある」こと以外は特に知らない。あとはオッサンが喚き散らしながら競馬新聞や馬券を投げ捨てていることぐらいだろうか。

馬に関する記憶も高校の修学旅行で行った北海道での乗馬体験ぐらいで、馬の背中にまたがり馬場を歩くだけだったが、それでも3メートル近い高さから友人を見下ろすのはなかなか愉快だった。しかも乗り降りする階段の傍でピタッと止まってくれるし、表情は大変穏やかだし、そのくせ本気を出せば原付よりは早く走れるというので、「君はなかなかカッコいいやつだな」とその時は素直に感心したのを覚えている。

それから時を経て30代が体に馴染んできた頃、「馬が一生懸命走るってのはカッコいいよな」と思い、とりあえずウインズに行ってみることにした。いわゆる「場外馬券売り場」というもので、全国の中央競馬の馬券を買うことができるし、レースも中継されているし、当然オッサンたちが中継画面を見ながら叫んだり嘆いたりしている様子を見ることができる。さぞ混沌としているかと思いきや、馬券を買うオッサンたちは競馬新聞やスマホをじっと睨みながら勝ち馬を予想しているのでその様子はさながらテニプリの乾のようであった。

この時に買った馬券はナミュール複勝900円で、3着までにゴールできれば勝ちとなる。ATMのような機械にマークシートと1000円札を入れると、その代わりに「馬券」が出てきた。大きさは名刺より少し小さく、紙質は新幹線の切符より柔らかかった。これを100円で買うやつもいれば数十万で買うやつもいるし、100万円に化けるかもしれないし紙切れになるかしれないというのだからギャンブルって変なシステムだ。

レース中はオッサンたちに混ざって「頑張れ!」と叫んで、ナミュールは最後の直線で中段からぐんぐん前に伸びて2着に入った。妻の買った単勝100円のカイザーミノルは外れていた。馬券を再び機械に入れると1000円の馬券が1600円ぐらいになって出てきた。あぶく銭はさっさと使うに限るので、夕飯は王将で瓶ビールを飲んだ。

お金が増えたのは良かったけれど、それだけならドル円天然ガスの売買に手を出しているのと大して変わらない。むしろあちらの方が扱う金額も勝ち負けの結果も大きい。それでも馬が一生懸命走っている姿はなかなかカッコよかったので、次は競馬場に行ってみることにした。十数頭の馬が走るのだからさぞカッコいいことだろう。

ウインズから出るとき、オッサンたちが負けた馬券や競馬新聞を次々とゴミ箱に捨てているのを見た。彼らも結局のところ乾のようにデータを捨てるのだ。お前は性学の恥なんやで。

航空自衛隊小牧基地とブルーインパルスを初訪問したときのレポ

3月3日金曜日の夜、日曜と月曜の連休をどう過ごすか思いあぐねていた。週末はナンシージジイとイキリキッズがそこらじゅうで散るからバイクには乗りたくないし、日がな1日Twitterバトルに身を投じても夕方には涙で画面が滲んでしまう。でもTwitterには世界中の真実が集まるから目を離すわけにはいかな…

「あ、小牧基地のオープンベースがあるじゃない。」

さすが我がタイムライン、必要な情報がいい感じに入ってくるように日頃から備えていてよかった。

しかし陸、海のイベントは何度か行ったことがあるものの航空自衛隊の基地に行ったことがない。ひとまず空自好きの知り合いに問い合わせる。持つべきものはChatGPTじゃなくて一角のオタクなのだ。

我:ご無沙汰しております。日曜日の小牧基地って行きます? 空自のイベント初めてなんで、何時ぐらいに現地入りしたらいいのか参考に教えていただければと…

被:お久しぶりです!!離着陸が見える一番前に陣取りたいので、だいたい7時くらいには着いて、開門待ちしてますかねー 離着陸見えなくてもいいなら、もう少し遅くても大丈夫だと思います! ただ8時半過ぎには飛行が始まるので 遅くとも8時には着いていた方がいいと思います!

しまった奴はガチ勢だった。とりあえず土曜日に名古屋に前泊して午前中に現地入りすればいいか…

午前7時30分!現着!

カプセルホテル特有の無駄な早起きのお陰で6時には支度が済んでしまい、結局開門と同時に到着。最初に手荷物検査があるけれどみんな早く中に入りたいからめちゃくちゃ協力的で回転が早い。

ブルーインパルスってやつだ。始めてみたけど二人乗りなのね。

アドバイスのお陰で結局1番機の前を陣取ることができた。まわりには超望遠レンズやエクステンダーを付けたガチ勢ばかりで、借り物のEOS90Dと望遠端150mmのズームレンズで来た自分がちょっと悔しい。

ちなみに入時間のアドバイスをくれた先任とは1番機の近くで10年ぶりの再開を果たしたが、10分ほど立ち話をして各々の世界に戻ることにした。今日はそれどころじゃないからな。

カメラのセッティングやらレンズの手入れをしているといつの間にかイベントが始まる。最初は「展示飛行」。あちこちから飛んでくる飛行機を眺めるのだ。

ちなみにRAW現像を初めてやってみたがパラメータが多すぎて全然わからなかった。現像なんてモノクロの紙焼きしかやったことないんだもの。

 

輸送機のC-130、色違いでかわいい

ヘリコプターのUH-60、空中でピタッと止まってた

奥の倉庫に三菱重工の文字が見えるけど三菱が飛行機を作る…?妙だな…?

滑走路からファンサしてくれるパイロット、ありがたい

一列にならんで給油しているC-130、かわいい

ずんぐりしているC-2は海の哺乳類みたい、かわいい

戦闘機のF-15は角ばっててカッコイイ

でけえエンジン…こういう焼け色って良いよね…良い…

 

そして本命のブルーインパルスの飛行。周りにガチ勢がいるおかげで「今日はn番機は〇〇さんだぜ」「あの技やるみたいだね」みたいな会話が聞こえてくる。ここはイナズマイレブンの観客席か?

イナズマイレブンというよりアイドルだった。儀仗隊じゃなくてマジでアイドル。

ほんで飛行も上手いし。

ブルーインパルスの飛行予定は1年分公開されているので、きっと追いかけて全国を飛び回るファンも居るんだろうな。着陸後も集合写真とか撮ってたもんな。たしか有川浩の小説にもブルーインパルスパイロットと結婚した人の話があったっけ。

今回のイベントは戦闘機よりも輸送機がメインで展示されていた。普通の輸送機から空中給油機、政府専用機なんかもやってきていたが、本当は飛行艇が観たかったのだ。

 

 

飛行艇US-2。海洋国家日本を飛び回る最高にクールでデカくて離陸距離の短い飛行艇だ。

鹿児島の鹿屋で二式大艇を見て以来、「いつか現行機のUS-2も見たい」と焦がれていたが、案外すぐに見られてご満悦であった。帰りのシャトルバスを待ってるときに展示機がバンバン帰投してたけどUS-2だけ滑走路のめちゃくちゃ手前から離陸しててバス待ちのみんなで驚いていた。

しかし飛行機を撮影するには最低でも300mmのレンズが欲しい。APS-Cのミラーレスと安めの超望遠レンズを買えば多分イケるよな。できれば米軍基地も行ってみたい。

しまった!ここは底なしレンズ沼とミリタリー沼だ!逃げろ!

 

夜行バスに暴かれる人となり


夜行バスは体力と引き換えに目的地に早く安く手軽に向かうことができる大変便利な交通手段だ。車内で眠ることさえできれば体感的にはコールドスリープをしているのと同じだと思っている。新幹線は早くて快適で作業や食事もできる移動の王道であるが、移動することのみに特化した夜行バスもなかなか良いものだ。

唯一のリスクを挙げるとすれば、万が一移動中に眠れなかった時の苦しみだろう。揺れる車内、蒸れた空気、十分とは言えないリクライニング、そういうものにうまく順応できないとみるみるうちに体力を削られることになる。

朝7時の東京駅日本橋口にはそんな夜行バスから投げ出された乗客たちで大いに賑わっている。特にマクドナルドは彼らの絶好の溜まり場であり、通路はスーツケースでひしめき合い、少なからず憔悴した彼らの表情からは一夜を走るバスの中で明かした疲労を伺うことができる。

コーヒーとマフィンを買って2階席の奥のテーブルに座ると、例に漏れず隣の席の男女から浅い睡眠による疲労と苛立ちの気配が感じられた。さてはこの2人揉めているなと思い聞き耳を立てた。

男はバスで眠れなかったらしく、女は早朝に男を迎えにきたらしい。男はバスに忘れ物をしたらしいが、特になにもしようとせず机に突っ伏ししている。女はしきりに「どうすんの?」「どうしたいの?」「私こんなに早く来る必要なかったよね?」としきりに男を責め立てているが、男は机に伏せたまま「あぁ」とか「うぅ」としか言わず、それを見て女はさらに苛立っているようだ。どうやら二人は遠距離恋愛のようだが、会って早々この展開はさぞ気まずいだろう。

でも結局、そういうつきあい方をしているふたりなんだろう。ダメな男と捨てられない女。ピリピリしているけれど、だからといってすぐに破綻することもない間柄。よくある二人。よくある景色。夜行バスだからこそ簡単に覗けてしまう人間関係。

夜行バスを使うのは、一人旅の時だけにしておきなさいと言うおはなし。

mouse on the keysにお祓いしてもらった日

2022年12月3日、mouse on the keysのライブを観るために神奈川県の平塚まで行ってきた。10年以上前に大阪の名村造船所跡地で観たのが最初で最後だったのに、あのときのカッコよさを何倍も上回る密度のカッコよさに脳天から足の薬指まで痺れた。

バンドの存在を知った時は、曲の構成や楽器の使い方が自分の知っているものとは全く違っていて、どう例えたらいいかもわからず、ただただカッコいいとしか表現のできない唯一無二のバンドだと思った。

10年前に聴いたときより遥かに上質な音楽体験ができたのは、自分の年齢や経験による音楽感?の変化、ようは少しくらい”分かる”ようになったからかも知れない。でもそれ以上に、mouse on the keysの音楽が10年以上磨かれ続けていたからに違いない。あのドラムの空気を震わせる熱量や五感すべてを揺さぶってくる体験は、決して替えの効かない、ライブでしか味わうことのできないものだった。

終演後に平塚駅へ歩きながら初冬の冷たい空気を浴びていると、自分の憑き物はすっかり落ちていた。あそこまでレベルの高いものを見てしまうと、自分が些細なことでうだうだしているのがつくづくバカらしくなって、目の前の濁った空気、霞がかった雑念がすっきりと消えてなくなり、なんだか清々しい気分になっていた。

どうして平塚なんて聞いたことのない場所でライブをやるんだろうな、とか、そもそも何で今さらライブにいこうと思ったのか、自分でも不思議だったけれど、2022年最高のライブとまさかこんな形で出会えるとは思いもしなかった。帰りの交通手段を確保しないまま夜光バスの強行軍で上京し、池袋駅ではホームを間違えてダッシュする羽目になったけれど、今回のライブは本当に良い旅の目的地になった。

ライブを聞き終えて真っ先に「書こう」と思った。やっぱり自分は書き続けて、1度くらいは何かを世に出すくらいの事をしたいと真剣に思った。人にここまで思わせることのできる力を音楽は持っている。自分の書く文章にそんな力があるとは思っちゃいないが、それでも「mouse on the keysから得た音楽の力がこんな形になったんだぞ」ぐらいは自分の文章で証明してみたいのだ。

 

映画『ゆるキャン△』|大人になることがこんなに怖いことだなんて誰も教えてはくれなかった

映画『ゆるキャン△』の情報公開から半年、そして劇場公開から一カ月が過ぎ、劇場が臭いだのオタクが煩いだのといった噂も落ち着いてきた8月、そろそろ見てもいい頃合いだろうと気まぐれに有給を取った私は平日朝イチで映画館に向かっていました。

twitterでは公開日からずっと「ゆるキャン」をミュートにしていたお陰でネタバレを食らわずに済んでおりました。しかし情報公開のタイミングで妄想を爆発させるオタクに巻き込まれたせいで、おかしな先入観だけがずっと頭の中に残っていたのです。

1人で都会に出てきた志摩リンは自分でも気づかないうちに少しずつ消耗していく。キャンプに行く気力も失い、フルローンで買った大型バイクも乗らないままバッテリーは上がり、でも地元に残った皆は相変わらず元気で、その差が眩しくて...私は...

みたいなストーリーなんでしょ????だってオタクがそう言ってたから!!!アニメに現実の辛いところを持ってきてキャッキャしてたのを聞いたから!!!!

そんな状態で劇場に行ってきたんです。まともじゃありませんよ。入場者特典でフィルム貰ったのに気づかないまま財布に放り込んで座席に腰を下ろすと無意味な居心地の悪さが…

うっさい!!!!!!!(京都の映画館ではおなじみのCM。ドリームホームと双璧をなす上映直前に映画の期待値を狂わせるバグ)

はい、観ました。お疲れ様でした。

昔好きだったものを大人になっても変わらずに好きでいられたら、きっと幸せだよね。という暖かい作品でした。

でもオタクは基本的に余計な深読みをしますし、虚無から情報を生み出すことさえできてしまうのです。それが解釈と言うのならきっとオタクは日光から栄養を取りだすことだってできるでしょう。

まず大人になったしまりんが満員電車に揺られて通勤してるのを見て心が痛い。会社で先輩や上司にフォローされながら仕事をしている様子も心が痛い。そもそも大人になった野クルメンバーの姿を見ているだけで心が痛い。

アニメのキャラクターが「大人」に変化して、現実の自分たちのいる「大人」のフィールドに向かってきているという事実が怖いのです。なぜなら彼女たちは自分たちが「大人」のフィールドで体験してきたことを、もしかすると体験してしまうかもしれないから。

例えば銃口を向けられて恐怖を感じるのは銃そのものが怖いからではなく、そこから弾丸が発射されるかもしれないから怖いのです。大人をやっていくことに恐怖を感じている自分にとっては『ゆるキャン△』のキャラクターたちが大人になっていく様子さえ怖いのです。

というわけでいい映画でした。ホンマヤデー。