花畑の写真を撮るために足元の草を踏みつけるような人間になったら私の首を刎ねてくれ

簿記2級の試験が終わった。過去問も教科書も半分ぐらいしか勉強できていないので、きっと点数も半分くらいだろう。次の試験は3月なので、それまでに残りの半分を勉強してリベンジすることにしよう。

少しだけ肩の荷が降りたので試験が終わってからは洗濯物を干したり、バイクに乗ったり、健康診断に行ったりすることができた。相変わらず暮らしのバランス感覚がないから、1つのことにハマると他のことがまるで手につかない。やはり女中さんを雇用することでしか解決できないのではないか。あるいはホテル住まいになるとかだ。とにかく生活することが面倒くさい。

大学の後輩がバイクを買ったというのでツーリングをしてみた。

後輩のバイクはCB400SF、僕のはスーパーカブ110。4倍近い排気量の差はあれど下道を一緒に走るぐらいならどうということはない。簿記の前に普通二輪免許を取ることになりそうだと思いながらサイドミラー越しに後輩のバイクを眺めることになった。

そもそも人と一緒に走るなんて初めてだ。合流してすぐに通話ができるようインカムを買う流れになり財布は一気に燃えたが、これはこれで楽しいしインカムはなかなか便利だ。それに良いショップだったのでツーリングの翌日に再訪してヘルメットも買い替えてしまった。総額でおよそ6万円。バイクは乗っている時よりも降りている時に金が飛んでいく。バイク沼は広くて深い。

「いずれ我々もハゲでデブでとんでもないデザインのライディングジャケットを着るオッサンになるんだろうな」と各々の将来を案じながら、ラーメンとソフトクリームを食べた。

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特に意識していなかったけれど紅葉も見ごろで鮮やかな木々の間を抜けたりそれなりに「映える」スポットを走ることができた。ただ写真は全く撮ってないので解散する間際になって1枚だけ写真を撮っておいた。バイクを入れた風景写真は撮るようになったけれど複数人でツーリングに行ったときに良い感じの写真を撮るのは難しそうだ。

そもそも「映え」ってなんだ。映えのために線路の杭を抜いたり水田に勝手に水を張ったりするような畜生どもと一緒になりたくはない。もしそうなったらためらわずに殺してくれと後輩に頼んでおいた。死体はその場に棄ておくということになった。そうすれば映えを求めてそこに人が訪れることはあるまい。

アレクサ、お前を消す方法を教えて

同僚がスマートスピーカーを買ったらしい。呼べばきちんと電気をつけたりしてくれるが、虚空に呼びかけるのが少し恥ずかしいそうだ。
「うちのチームもみんなが予定をスマートスピーカーに記録したらいちいちホワイトボードに書かずに済みますね〜」と話していたが、朝礼のときに「アレクサ、今日のみんなの予定は?」と呼びかけてアレクサの声をみんなでメモする姿はディストピアだと思った。
スマートスピーカーの前で「アレクサ、おはようございます」と挨拶すれば出勤となり、「アレクサ、お先に失礼します」と挨拶すれば退勤になる。
しかし声が小さいと「それが社会人の挨拶ですか?」と詰めてきて自動的に遅刻にされるし、残業しようとしても「〇〇、お疲れ様でした」と一方的に告げられてタイムカードを切られる。もちろんスマートスピーカーだから消灯も全自動だ。
これが21世紀のモダンタイムスだ。僕らの上司は賢いスピーカー。WEBカメラの向こうではビッグブラザーが見守っているぞ。

帰りに工業簿記の参考書を買うって覚えといてください

『大人になってから勉強することの楽しさを知る』みたいな話を誰でも一度は聞いたことあるだろう。「うわ~昔は嫌いだったのに教科書おもしれ~」みたいなやつだ。あの風潮を見聞きするたびに、みんな本当に勉強が楽しいと思ってんのかと疑わずにはいられない。

なぜなら簿記の試験勉強がまったく楽しくないからだ。結局のところ興味のないことを勉強するのは苦痛でしかないのだ。

簿記の資格だって「3級取れたから今年は2級受けてみるか」ぐらいの気持ちで申し込みしただけだし、練習問題に対して「減価償却を定率法と定額法混ぜてやる奴があるか!」とかキレたりしてるし、工業簿記だって全然やってないし。もうとにかくモチベーションがない。

それに合格したからと言って給料や休暇が倍に増えるわけでもない。じゃあなんで家で勉強してるんだということになる。鳥貴族でハイボール飲んで焼き鳥食べてるほうがはるかに有意義ではないか。

これが自分と全く関係のない分野の勉強だったら利害関係もないから純粋に楽しめるんだろうな。素粒子物理学とか宇宙工学とか勉強してみたいもの。原子を超高速でぶつける実験とかめちゃくちゃ楽しそうだもんな。

今自分を勉強に駆り立てる唯一の要素は、既に4000円の受験料を払ってしまったという事実だけだ。金を払ってしまった以上は合格したいし、そのためにはやはり勉強しなきゃならん。こうなってしまっては今更後には引けないのである。

そしてこういう状態をコンコルド効果、サンクコスト効果と言う。やっぱり自分に関係のない分野の知識を勉強するのは楽しいな。

吉田類お断りの店

 

吉田類という酒を飲むことで名を馳せた男をご存じでしょうか。「酒場詩人」だの「居酒屋探検家」だの呼ばれることもあるこの男は、とにかく飲み屋を巡ることを生業としており、今や「吉田類の酒場放浪記」なる冠番組まで持っている始末であります。彼の主な活動地域は首都圏でありますが、その飲み屋発掘に触発されて今では全国で地域の飲み屋を紹介する多様な書籍やSNSども跳梁跋扈しております。

また「映えぬものに価値はあらず」という現代の消費者にとって、個人店やそこで振る舞われる酒、料理は「映え」という価値を持っており、あるいはそこでしかできない「呑み」という顧客体験の存在に、人は容易く引き寄せられいくようになりました。

かくして承認欲求を満たす正方形の写真とハッシュタグジオタグには七珍万宝の価値があると信じられる時代がやってまいりました。

しかし個人店の店主たちも一枚岩ではありません。新たな顧客を迎えるべく見栄えを整えようとする店もあれば、紹介されているからとずかずかやって来て、写真だけ撮って帰っていくような輩を苦々しく思う店もあるのです。中には新規客が既存の常連客を遠ざける原因にもなるからと、どれだけ人気店であろうとも取材を受けないようなところもございます。

私がおります京都はどこもかしこも観光地であるため、とにかく「映え」による影響が最も大きい場所の一つである。写真を撮るだけでなく建物や挙句舞妓にまで手を出そうとする観光客に辟易とした地元住民が撮影禁止の立て看板を出したり罰金を求めたりと、日夜いたちごっこが繰り広げられている始末です。

飲み屋街の動向も前述と同じように、とにかく「京都」を前面に出してメニューにも店名にも「京」と付ける露骨な店もあれば、観光客など来て“いらんわ"と息をひそめて身内で席を埋める店もございます。「一見さんお断り」なる文化もかつてはありましたが、相手が知らなければその文化は存在していないのと同じでありますので、何も知らずに殺到する一見さんをあしらうのに疲れた店は、自然とその姿を隠すようになっていきました。

提灯や看板を隠した店。店内が見えないよう窓をふさいだ店。VRの世界に逃げた店。井戸の底でじっと息をひそめている店。新しい惑星系への移転を求めた店。高次元存在に昇華した店。多くの店が生き延びるため様々な活路を求め、今やそのほとんどが隠れたのか消えたのかも分からなくなってしまいました。

身を隠しつつもお客は迎えねばならない、そう気づいた店主たちは二律背反の悩みに頭を抱えることになりました。しかし結局はどこかで妥協しなければならないことも彼らは分かっておりました。そうやって生まれ店のスタンスの一つが「吉田類お断りの店」であります。「吉田類の酒場放浪記を見てやってくるような客が一番めんどくせえ」ということに彼らは気が付いたのです。ならばその大元である「吉田類」さえ締め出せばよい。災厄の根幹から逃れることができればこれからも店は平和にやっていける、彼らはやがてそう信じるようになりました。

もしあなたが京都を訪れた観光客で、宿の近くで飲み屋を探すなら決してに関連するあらゆる媒体を参考にしてはいけません。そこで紹介された店の多くはもう存在しないか、存在していたとしても██████だからです。自分のセンスを頼りに、その町とうまく調和している店に飛び込んだほうが、きっと美味しい思いができることでしょう。ただもしあなたがその店の料理や酒を写真に収めて、SNSに投稿しようとするときはどうか気を付けてください。それが██████に察知される恐れがあると店の誰が判断した瞬間、あなたは██████、あるいは██████によって京都での旅を終えることになるからです。どうか良い旅と良い酒に恵まれますように。

 

酒場詩人の美学 (単行本)

酒場詩人の美学 (単行本)

  • 作者:吉田 類
  • 発売日: 2020/08/20
  • メディア: 単行本
 

 

試される大地で甘やかされて勝ち取ったナンバーワンだった<北海道カブツーリング7日目>

<前>

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 朝8時頃に起床。疲れていても朝型の生活サイクルは変わらない。風呂に入ろうと廊下に出ると船の揺れで少しふらついてしまった。往路より少し波があるようだが寝てる間は少しも気づかなかった。大浴場の湯船も傾くたびに少しずつ湯が溢れている。

朝食は乗船前に買い込んでおいたセイコーマートで済ませ、ベッドでゴロゴロしてから暇を持て余して再びロビーに出る。もちろん電波はないし、四方は海に囲まれている。何もしなくてもバイクごと京都まで連れて行ってくれるんだから船は便利だ。そしてこういうときに何をするべきか。もちろん飲酒だ。そして北海道の思い出に浸りながら撮った写真を整理したりマップに走ったルートを記したり、旅を終える儀式を済ませていくのだ。

酒とつまみを船内の自販機でパパっと買い。海の見える席でビールを開けた。ただ船が揺れるからか思ったより酔いが早く回り、写真も地図も片付かないまま眠たくなってしまった。舞鶴に上陸するまでまだ9時間以上あるけれど、そこから夜の下道を3時間かけて帰らねばならないので一応その準備もしなければならない。ビールを空にしてからは自室で昼寝をしたりデジカメの写真を眺めたりしながら夜に備えて体力を回復させることにした。

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風景やバイクの写真はもちろんたくさん撮った。ただ個人的にはその土地の暮らしや日常の匂いがする写真のほうが好きだ。

時間が経つとどこで撮ったのかも分からなくなってしまう写真たちばかりだけれど、それでもこれらは確かに存在したという記録にはなる。そういう奇妙な記録のためにバイクに荷物を縛り付けてあちこちを走る回るのは、なかなかどうして楽しいものだ。

さて次はどこに行ってみようかしらね。

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<おわり>

モエレ沼公園と二条城を交換して欲しい。あるいはカツゲンと湯葉でも。<北海道カブツーリング6日目>

 <前>

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朝、小樽から舞鶴へのフェリーを予約した。シーズンオフの平日なので往路と同様にチケットは余裕で取れた。出航は夜11時30分。10時頃に到着していれば大丈夫なはず。苫小牧から小樽までは最短で100キロ程度。寄り道しながらゆっくり向かっても時間が余る計算だ。少しは観光らしいこともしたほうが良いと今更ながら思った。

朝食は洞爺湖を眺めながら食べることにした。支笏湖を経由して1時間程度走り、洞爺湖が一望できる展望台登って朝食の支度を始める。例によってカップヌードルカツゲンだけれど、景色が良いからそれだけ満足だ。

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そういえば高校時代の修学旅行先は北海道で、洞爺湖のホテルにも泊まっていたんだった。今思い出してもあの時カップルで修学旅行に行けた奴らが羨ましい妬ましい。このあたりの思春期タトゥーはいくらツーリングしようと優勝し続けようと到底上書きできるものではない。良くない思い出アーカーイブを開きそうになったのでカツゲンを一気飲みして気を紛らわせた。今日も美味いぞカツゲン

次は北上して羊蹄山でも見に行こうとしばらく走っていると、急にモエレ沼公園のことを思い出した。高校生のころからずっと行きたいと願いながら結局行く機会もなく、ずっと自分の「行きたい場所リスト」の1位を占領していたイサム・ノグチモエレ沼公園。10年以上行きたいと思っていたのになぜ今まで忘れていたんだ。北海道に来てから初めて、今まで走った道を振り返って、ルートを札幌方面に変えた。

モエレ沼公園に着いたのはお昼ごろ。まずはピラミッドの形をしたモエレ山に登り、公園全体を眺めながらそこでお弁当を食べた。タウシュベツでは自然の景観に圧倒されたが、モエレ沼公園ではイサム・ノグチが遺した作品の大きさに圧倒された。なんだってデカいのはいいことだ。

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山の頂上からは人が点にしか見えない。それくらい大きな公園がある札幌が心底羨ましい。京都は梅小路くらいしか大きな公園がないから、二条城あたりと交換して欲しい。子供じみた駄々をこねてたら冷たい風が吹いてきたので、次は目の前にあるガラスのピラミッドに向かう。ここの入館料はなんと無料だという。二条城が大人600円だと考えると...しかしあれは観光地だから...何も言うまい。

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 ピラミッドの中は広い吹き抜けや彫刻が展示してある。1階にはレストランも入っていて本格的なフレンチからおやつまで食べられるようになっている。部活で寄り道しているらしい高校生に混じってソフトクリームを食べながらこの建物や空間を堪能した。公園は日常の延長線にあるものだと思っていたけれど、ここまで作り込めば非日常みたいに思える。昼食を食べた山は芝が生えていたけれど、そもそもピラミッドの形をした山だって非日常だ。

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来た時は動画撮影をしている学生風の女の子たちがいたけれど、夕方になると人もいなくなってきたのでタイミングを見計らって最後の自撮りをしておいた。ダサいアー写みたいな写真が撮れたので大いに満足した。何やってるのか分からないところが気に入っている。

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日が沈むまで公園に入り浸って、そこからのんびり小樽へ向かう。フェリーが出るまでそこそこ時間があったので、小樽運河を眺めたり倉庫を背景にカブの写真を撮ったりしながら遊んでいた。坂道を登ってみたりもしたけれど夜なのでそこからは何も見えなかった。いつか明るい時間の小樽も訪れてみたい。こうやってリベンジ案件が増えていくんだろう。

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夕飯はなぜか山岡家になった。チェーン店ということは知っていたけれど関西じゃ見たこともないし、そのくせ北海道ではあちこちにあったのでついつい入ってしまった。なんというか家系にシフトした天下一品みたいなラーメンだった。疲れた体にはありがたい塩分濃度だ。帰ってから関西圏のお店を調べると明石店がヒットしたけれど、正直明石は行きづらい。これからも東に出かけたときに寄ることにしよう。

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10時頃フェリー乗り場に着くと50台以上のバイクが並んでいた。舞鶴から乗った時の3倍位並んでいるだろうか、よくもまあこんなに集まるものだ。大きなバイクを見ていると羨ましくもなるが、しかし箱が似合うのはうちのカブがダントツだ。最近はスポーツ系のバイクを見ても「どうやって箱載せるんだ?」「キャンプ道具は積めるのか?」という目線で見てしまう。こうやって偏見が生まれていくんだな。

明らかに疲れているようなので荷締め具合を確認してさっさとロビーで休むことにした。おっさんライダー達がベンチで溶けながらコナンを見ている。誰もきちんと見ていないだろうからきっと真相は迷宮入りだろう。

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フェリーに乗船して荷物を下ろすと、気が抜けて一気に眠たくなってきた。感慨に浸る暇もなく、北海道に別れを告げることもせず、張ったばかりのシーツに倒れてそのまま寝てしまった。しかしまだ旅は終わらない。明日は夜まで海の上で過ごすし、クーラーバッグには買い込んだカツゲンも入っている。

10年以上前に飛行機で北海道に来た修学旅行生の自分は、フェリーとバイクで北海道に来た今の自分を見て、道中の主な話し相手が野生の鹿だった自分を見て、一体何を思うのか。フェリーは羨んでくれるといいな。

<つづき>

 

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走れ、走れ、もっと走れ<北海道カブツーリング5日目>

<前>

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 いつもどおり朝6時に起床。ここは然別湖北岸野営場。朝食は最後の一切れになったみそぱんとカツゲン。このほのかな甘さが体にしみる。

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今日は予定がない。それに天気もあまり良くない。いよいよ行き場がなくなった。みそぱんを齧りながら地図を眺めてもなかなかピンとくる行き先が思いつかない。ひとしきり考えた結果、ひとまず北から南下してきた訳だし、引き続き南に進もうということになった。気圧が下がっているらしく頭が痛くなったので頭痛薬を飲んで7時にキャンプ場を出発した。

今回は然別湖の北側でキャンプをしたが、湖の南側にはホテルが立っていて湖面にはボートも浮かんでいた。決して目立つ場所にあるわけではないものの、静かで落ち着いた場所だった。誰でも一度来たらきっと気に入るだろうなと思った。

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山を降りると両サイドが鉄条網と林だらけの場所に出た。林の先が見えないのでちらちら横を見ながら走っていると立入禁止の看板と駐屯地の文字が見えた。陸自の演習場なのか。本当にあちこちに駐屯地がある。さらに進むと駐屯地の門と、すぐそばに戦車が置いてあるのが見えた。戦車を持つ駐屯地というのはさすが北海道という感じだ。

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置いてあったのは61式戦車と、74式戦車、そのさらに右には60式自走無反動砲もあったけれど、装甲車にバズーカ載せたものを戦車と呼ぶのは流石に無理があるだろう。駐屯地を抜けるといつもの見通しの良いひたすらに真っ直ぐな道が復活したのでまた無心で走り続けた。無心なのはまだスマホが粉砕した件は引きずっているからだ。

10時15分に帯広駅に到着。もう旅程どころかその日の時間さえ気にしなくなってきてるので、写真を見返さないといつどこにいたかさえ曖昧だ。

帯広に寄ったのは「豚丼」を食べるためだった。フェリーの昼食で豚丼は食べたけれど、やはり本場の味を食べておいたほうが良いだろう。さすがにみそぱんとカツゲンだけでは北海道の食を語るのは難しい。帯広駅前にある地下駐車場にバイクを止めて、駅構内に出店しているお店に入った。

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やはり本場の、というかきちんとしたお店だと出てくるものもまるで違う。肉はデカイし、固くなる一歩手前で綺麗に焼き上がっている。タレも美味い。やっぱり本場で食べておかないとな、と思いつつも、店の名前はすっかり忘れてしまった。しかし美味しかったのは事実だ。名物を名乗るだけのことはある。

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食べ終えて帯広駅を出るといつの間にか雨が降り出していた。駐車場で雨具を着込み、市内で給油を済ませ、また何も考えずに走り出す。「南に行く」という方針によれば、このまま南に進み続けると襟裳岬にたどり着くはずだ。雨の中岬に行ったところでろくな景色も見られんだろうと少しは懸念したものの、何もせずにいるより走り続けている方が遥かに気持ちが楽だった。

給油と小休止以外は寄り道もせず延々と走り続けて、4時間弱かけて襟裳岬に到着した。岬から水平線が見えるわけでもなく、振り返っても山々が見えるわけでもなかったけれど、走りながら色々なことを考えて、考えてもしょうがないな、と思い至るぐらいには頭の中は片付いた。ただツーリングを禅と履き違えているような気はする。

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唯一面白かったのは襟裳岬の駐車場に一軒だけある土産物屋だ。名産品の名前と「テレビに紹介」の文字をこれでもかと掲げてあった。ここまでジャンクな土産物屋は初めてだ。雨に濡れていたので店内には入れなかったけれど、こういうところなら謎のステッカーやアイテムが見つかるに違いない。

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この「のぼり」の密度だけでも楽しい。これぞ観光地、という感じだ。

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さて襟裳岬にはついた。ちょっと周りを走ってみるかと思って岬の駐車場を出ると、鹿の親子に出くわした。もちろん野生だろう。道に飛び出すこともなく静かにこちらを見ていた。

北海道に来てから全く人と話をしていないので、路肩にバイクを止めて鹿に話しかけてみることにした。「雨結構冷たかったですね」とか「ここっていつも風強いんですか」とか、取り留めのない話ばかりだったけれど、手前の子鹿は割とこちらを見て話を聞いてくれていた。しばらく一方的に喋って「走ってばっかりなんでやっぱ疲れますわ」と口にしたところで、自分が疲れてきてることをようやく理解した。何も考えずに走っていたというより、おそらく何も考えられていないだけだ。あと鹿に話しかけている時点で相当ヤバい。

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ひとまずこの日は苫小牧まで行くことにした。襟裳岬から苫小牧までも4時間弱かかるが、それぐらいは別にどうにでもなる。この日だけで400キロ走ることになるが、それを望んで北海道まで来たのだから本望だ。

苫小牧への到着は夜になってしまったが、銭湯に入ることはできた。昔からある感じの地元の銭湯で、男湯と女湯が線対称の構造で、もちろん天井を通して向こう側の声も聞こえる作りだ。湯は熱めで、おかげで雨に濡れた体も一気に回復できた。僕は外様なので風呂場でも脱衣場でも隅で大人しくしていたが、番台の女将さんや常連のおじさんたちは話し好きらしく旅行者だと知ると苫小牧周辺の色々なことを教えてくれた。

このあたりの鹿たちは牧場の馬たちと一緒に過ごすことが増えてきたとか。猟師もさすがに牧場に銃は向けられないし、牧場の馬は競走馬だから誤射しようものなら損害賠償がエライことになるとか。京都にいたらまず聞かないような話ばかりだった。それに人と話すのはやはり楽しい。鹿は話しかけても返事してくれないものな。

銭湯を出て、湯冷めしない程度にゆっくりと苫小牧を走りながら、明日のフェリーで京都へ帰ることに決めた。十分満たされたし、もうこれ以上は蛇足になってしまう。

<続き>

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