TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

門別競馬の鹿は撃ち抜けない

<前回のはなし>

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秋、遅い盆休みに敢行した東北縦断征夷大将軍ツーリングの最終日を、僕は北海道で迎えていた。名古屋から仙台に上陸し、東北のツーリングスポットである蔵王や磐梯吾妻を駆け抜け、青森から函館に上陸してラッキーピエロを食べ、あとは小樽から舞鶴行きのフェリーに乗るだけだった。

フェリーの出発は23時と遅いので、自由時間は存分にあった。札幌でHTB旧本社跡やモエレ沼公園に行ってもいいし、千歳で飛行機を眺めるのもアリだなあと思いながら函館を北上していると、青看板に「苫小牧」の文字が見えた。

初めてバイクを買って、その年に北海道をツーリングして、そして苫小牧で入った銭湯がバカみたいに熱かったことを急に思い出した。あの時は番台の女将さんに「湯船熱いからガンガン水入れてね!」と言われたものの、先客のお爺さんに気後れして我慢しながら湯に浸かったのだ。そしてお爺さんから「日高の方は馬の牧場が多いんだけど、鹿が牧場の中に入り込むんだよね。猟銃で馬なんて撃ったらエライことだからさ、鹿にとっちゃ馬の近くが安全地帯なわけだよ。ところで水入れていい?」なんて北海道トークを聞かされたんだった。

あの時は「水入れながら話してくれよ」としか思わなかったが、今の自分は迷わず馬に会うことを選んだ。待ってろお馬さん。乗馬体験とかエサやりとか出来たらいいな~楽しみ~。

そして選ばれたのは「ノーザンホースパーク」でした。馬も居るし、レストランもきれいだし、テーマパークっぽいし、土砂降りの中3時間走ったことを除けばもう完璧だった。ツーリング初日にワークマンに寄った自分をここで存分に労うことにする。ツーリングの記録は諦めた。

敷地内の厩舎ではG1馬や乗馬で活躍している馬たちを自由に見せてもらえる。厩務員さんに体を洗ってもらってる馬も、食事をしている馬も、ゴロゴロしている馬も見放題だった。もう全部が可愛い。

馬によっては撫でさせてくれるし、「この辺掻いてくれや」と自分からやってくる馬もいる。鼻はゴムボールみたいにブニブニしていて、いくらでも触っていたくなる。頭も良くて可愛いくて馬力もあるなんて完璧動物じゃないか。どんどん心が満たされていくぞ。

そして乗馬体験の話を受付で聞いてみると、どうやら体重80キロ未満の人は体験可能とのことだった。まあみんな元競走馬で華奢だし、僕はツーリング中ほぼ毎日山岡屋食べてたから、なんというか、まあ、うん。あ、馬車もあるんですね。でも今日は雨だからやってないと。そうですか。あ、ポニーショーは見られるんですね。ありがとうございます。

さて、苫小牧の銭湯で出会ったお爺さんは牧場の他に競馬場があるとも言っていた。調べると見事に門別競馬が開催期間中で、しかもここから1時間以内の距離。もう行くしかない。このツーリングの最終目的地は門別競馬場だ。

北海道は時速60キロで1時間走ると60キロメートル進むことのできる算数のたかしくんみたいな道が大半なので、45キロメートル先の競馬場には45分で到着。バイク置き場に誘導されると受付のおばちゃんが僕のバイクまでやってきてスタンドの下に鉄板を差し込んでくれた。北海道のアスファルトは柔らかくてバイクスタンドがめり込むと聞いていたけれど、それを優しさでカバーしてくるとは思いもしなかった。しかも入場料は無料だという。園田でさえ100円払うのに!?これだけで実質勝ちじゃないか。

門別競馬場はさすが北海道と言うべきか、コースは結構大きくて直線は300mぐらいあるという。その割に建物やパドックはこじんまりとしていて、馬券が買える建物は2棟あるが、大きい方の建物でも体育館程度の広さだった。そもそも大半の人が馬券をネットで買う時代だから、現地の人の数なんて関係ないのかもしれない。

客層も競馬好きというより地元の人たちが集まっている感じで、ゴール前で大盛り上がりしてるグループが家族と来てる馬主さんだったりと、競馬場とは思えないぐらい和気あいあいとした雰囲気だった。園田の殺伐さや、大井のキラキラ感とは違う豊かさがあり、どの競馬場よりものんびり過ごすことができた。

ちなみに馬券は全滅だった。夕飯代を巻き上げるつもりが一方的に北海道の畜産に貢献してしまった。この出費は旅費に混ぜておけば大丈夫だろう。乗馬体験もしてないわけだし。

帰り際、バイク置き場のおばちゃんに「今日の分は、来年、取返しに来ますんで!ありがとうございます!」と負け惜しみを吐いて小樽へ向かった。そして外れた馬券と山岡屋のサービス券をスクラップブックに貼って、今日もnetkeibaを眺めている。でも馬券を買うのは馬体重と返し馬を見てからだ。