TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

夜行バスに暴かれる人となり


夜行バスは体力と引き換えに目的地に早く安く手軽に向かうことができる大変便利な交通手段だ。車内で眠ることさえできれば体感的にはコールドスリープをしているのと同じだと思っている。新幹線は早くて快適で作業や食事もできる移動の王道であるが、移動することのみに特化した夜行バスもなかなか良いものだ。

唯一のリスクを挙げるとすれば、万が一移動中に眠れなかった時の苦しみだろう。揺れる車内、蒸れた空気、十分とは言えないリクライニング、そういうものにうまく順応できないとみるみるうちに体力を削られることになる。

朝7時の東京駅日本橋口にはそんな夜行バスから投げ出された乗客たちで大いに賑わっている。特にマクドナルドは彼らの絶好の溜まり場であり、通路はスーツケースでひしめき合い、少なからず憔悴した彼らの表情からは一夜を走るバスの中で明かした疲労を伺うことができる。

コーヒーとマフィンを買って2階席の奥のテーブルに座ると、例に漏れず隣の席の男女から浅い睡眠による疲労と苛立ちの気配が感じられた。さてはこの2人揉めているなと思い聞き耳を立てた。

男はバスで眠れなかったらしく、女は早朝に男を迎えにきたらしい。男はバスに忘れ物をしたらしいが、特になにもしようとせず机に突っ伏ししている。女はしきりに「どうすんの?」「どうしたいの?」「私こんなに早く来る必要なかったよね?」としきりに男を責め立てているが、男は机に伏せたまま「あぁ」とか「うぅ」としか言わず、それを見て女はさらに苛立っているようだ。どうやら二人は遠距離恋愛のようだが、会って早々この展開はさぞ気まずいだろう。

でも結局、そういうつきあい方をしているふたりなんだろう。ダメな男と捨てられない女。ピリピリしているけれど、だからといってすぐに破綻することもない間柄。よくある二人。よくある景色。夜行バスだからこそ簡単に覗けてしまう人間関係。

夜行バスを使うのは、一人旅の時だけにしておきなさいと言うおはなし。