TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

もっと走れ<北海道カブツーリング5日目>

<前>

 いつもどおり朝6時に起床。ここは然別湖北岸野営場。朝食は最後の一切れになったみそぱんとカツゲン。このほのかな甘さが体にしみる。

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今日は予定がない。それに天気もあまり良くない。いよいよ行き場がなくなった。みそぱんを齧りながら地図を眺めてもなかなかピンとくる行き先が思いつかない。ひとしきり考えた結果、ひとまず北から南下してきた訳だし、引き続き南に進もうということになった。気圧が下がっているらしく頭が痛くなったので頭痛薬を飲んで7時にキャンプ場を出発した。

今回は然別湖の北側でキャンプをしたが、湖の南側にはホテルが立っていて湖面にはボートも浮かんでいた。決して目立つ場所にあるわけではないものの、静かで落ち着いた場所だった。誰でも一度来たらきっと気に入るだろうなと思った。

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山を降りると両サイドが鉄条網と林だらけの場所に出た。林の先が見えないのでちらちら横を見ながら走っていると立入禁止の看板と駐屯地の文字が見えた。陸自の演習場なのか。本当にあちこちに駐屯地がある。さらに進むと駐屯地の門と、すぐそばに戦車が置いてあるのが見えた。戦車を持つ駐屯地というのはさすが北海道という感じだ。

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置いてあったのは61式戦車と、74式戦車、そのさらに右には60式自走無反動砲もあったけれど、装甲車にバズーカ載せたものを戦車と呼ぶのは流石に無理があるだろう。駐屯地を抜けるといつもの見通しの良いひたすらに真っ直ぐな道が復活したのでまた無心で走り続けた。無心なのはまだスマホが粉砕した件は引きずっているからだ。

10時15分に帯広駅に到着。もう旅程どころかその日の時間さえ気にしなくなってきてるので、写真を見返さないといつどこにいたかさえ曖昧だ。

帯広に寄ったのは「豚丼」を食べるためだった。フェリーの昼食で豚丼は食べたけれど、やはり本場の味を食べておいたほうが良いだろう。さすがにみそぱんとカツゲンだけでは北海道の食を語るのは難しい。帯広駅前にある地下駐車場にバイクを止めて、駅構内に出店しているお店に入った。

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やはり本場の、というかきちんとしたお店だと出てくるものもまるで違う。肉はデカイし、固くなる一歩手前で綺麗に焼き上がっている。タレも美味い。やっぱり本場で食べておかないとな、と思いつつも、店の名前はすっかり忘れてしまった。しかし美味しかったのは事実だ。名物を名乗るだけのことはある。

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食べ終えて帯広駅を出るといつの間にか雨が降り出していた。駐車場で雨具を着込み、市内で給油を済ませ、また何も考えずに走り出す。「南に行く」という方針によれば、このまま南に進み続けると襟裳岬にたどり着くはずだ。雨の中岬に行ったところでろくな景色も見られんだろうと少しは懸念したものの、何もせずにいるより走り続けている方が遥かに気持ちが楽だった。

給油と小休止以外は寄り道もせず延々と走り続けて、4時間弱かけて襟裳岬に到着した。岬から水平線が見えるわけでもなく、振り返っても山々が見えるわけでもなかったけれど、走りながら色々なことを考えて、考えてもしょうがないな、と思い至るぐらいには頭の中は片付いた。ただツーリングを禅と履き違えているような気はする。

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唯一面白かったのは襟裳岬の駐車場に一軒だけある土産物屋だ。名産品の名前と「テレビに紹介」の文字をこれでもかと掲げてあった。ここまでジャンクな土産物屋は初めてだ。雨に濡れていたので店内には入れなかったけれど、こういうところなら謎のステッカーやアイテムが見つかるに違いない。

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この「のぼり」の密度だけでも楽しい。これぞ観光地、という感じだ。

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さて襟裳岬にはついた。ちょっと周りを走ってみるかと思って岬の駐車場を出ると、鹿の親子に出くわした。もちろん野生だろう。道に飛び出すこともなく静かにこちらを見ていた。

北海道に来てから全く人と話をしていないので、路肩にバイクを止めて鹿に話しかけてみることにした。「雨結構冷たかったですね」とか「ここっていつも風強いんですか」とか、取り留めのない話ばかりだったけれど、手前の子鹿は割とこちらを見て話を聞いてくれていた。しばらく一方的に喋って「走ってばっかりなんでやっぱ疲れますわ」と口にしたところで、自分が疲れてきてることをようやく理解した。何も考えずに走っていたというより、おそらく何も考えられていないだけだ。あと鹿に話しかけている時点で相当ヤバい。

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ひとまずこの日は苫小牧まで行くことにした。襟裳岬から苫小牧までも4時間弱かかるが、それぐらいは別にどうにでもなる。この日だけで400キロ走ることになるが、それを望んで北海道まで来たのだから本望だ。

苫小牧への到着は夜になってしまったが、銭湯に入ることはできた。昔からある感じの地元の銭湯で、男湯と女湯が線対称の構造で、もちろん天井を通して向こう側の声も聞こえる作りだ。湯は熱めで、おかげで雨に濡れた体も一気に回復できた。僕は外様なので風呂場でも脱衣場でも隅で大人しくしていたが、番台の女将さんや常連のおじさんたちは話し好きらしく旅行者だと知ると苫小牧周辺の色々なことを教えてくれた。

このあたりの鹿たちは牧場の馬たちと一緒に過ごすことが増えてきたとか。猟師もさすがに牧場に銃は向けられないし、牧場の馬は競走馬だから誤射しようものなら損害賠償がエライことになるとか。京都にいたらまず聞かないような話ばかりだった。それに人と話すのはやはり楽しい。鹿は話しかけても返事してくれないものな。

銭湯を出て、湯冷めしない程度にゆっくりと苫小牧を走りながら、明日のフェリーで京都へ帰ることに決めた。十分満たされたし、もうこれ以上は蛇足になってしまう。

<続き>

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