TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

1億円で会社を殴ってから辞めた話

今年、会社を辞めるついでに未払いの残業代を請求した。

退職の意向を上司に告げると同時に、過去のタイムカードのコピー、支社全員の残業時間のデータ、労働基準法の抜粋。これらの資料をプレゼン用のファイルに綴じて上司に手渡した。請求できる期間は2年までだということは知っていたが、資料にはわざと入社時からの残業時間の累計と、年度ごとの時給、そして未払い残業代の総額を記載しておいた。

退職の話をしたその日から有給消化に入り、それから退職まで職場に顔を出すことはなかった。私物はあらかじめ処分しておいたし、どうでも良いものは適当に処分してもらえればそれでよかった。残業代の話は上司から人事へと担当が移った、反論や怒りをぶつけられることもなく、退職金と未払いの残業代の両方を受け取り、すんなり退職することができた。回収した残業代は50万も行かないくらいだったし、これまでの職場でのストレスや苦労を清算できたわけでもない。その時は達成感や喜びも何も感じず、退職金は引っ越し代に消えた。

仕事を辞めてからしばらく経ったある日、人づてに僕が辞めてからの会社の話を聞いた。どうやら残業代は自分だけでなく、全社員に支払われたらしい。もちろん過去2年分までだが、中には7桁ほど受け取った人も居たとのことだ。社員数が200名、一人当たりの未払い残業代を50万円として、会社の出費は約1億円だ。

「お前たちが仕事を辞める原因になったのに」「お前たちは文句を言いながら何もしなかったのに」ここでやっと会社を辞めたことへの思いが込み上げてきた。仕事を放り出して居なくなった自分は恨まれているかと思ったが、残業代が支払われたことで自分に感謝している人間すらいるらしい。あいつらに恨まれても癪だが、感謝されるのも気に入らなかった。自分はそんなことの為に会社を辞める準備をしていたわけじゃないのに。

辞めるほど嫌いだった会社を1億円で殴れたが、その1億円が他の奴らに流れて感謝されてしまった。会社へ復讐のようなことはできたが、自分に残ったものは何もなかった。復讐は何も産まないのかとも思ったが、最後は会社同様嫌いだった奴らには何かが産まれてしまった。

「こんなことの為にやったんじゃない」漫画みたいなセリフを口にする日が来るなんて誰が想像できるだろう。