TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

舞台『夜は短し歩けよ乙女』上田誠はミュージカルもできるし久保史緒里は見たことあるぞ

夜は短し歩けよ乙女』が上田誠の元で舞台化した。

2006年に出版されたこの作品が僕の人生に与えた影響は計り知れない。本が好きになり、大阪の大学に進学し、同じ輩に出会い、ヨーロッパ企画にハマり、それからずっと七転八倒し続けることになったのは、そもそも森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』に出会ったからだった。よくもまあ15年も推し続けたものである。

舞台化のニュースを見て「ああ、ついにか」という気持ちでチケットを取った。大阪のクールジャパンパーク大阪WWホールとかいうクールな名前の劇場の千穐楽だ。シアターBRAVAが無くなって久しいけれどまさか再び大阪城公園に来られるとは。

ヨーロッパ企画主義者なのでチケットはヨロ通付のものにして、開演までの間はパンフレットと一緒にじっくり読んで過ごした。久しぶりに読んだヨロ通はいつも通り文字が多くて安心した。

ヨーロッパ企画ではない上田誠の舞台の新鮮さ

上田誠の舞台とは言え今回はヨーロッパ企画公演ではない。先輩役は歌舞伎の中村壱太郎、乙女役は乃木坂の久保史緒里、李白役は竹中直人。やたら強そうな面子をそろえたのはフジテレビだからだろう。もちろんサイドも手堅く固めてあり、そしてヨーロッパ企画界隈のメンバーはキャスト全体の3分の1くらいを占めていた。

我らの団長こと池浦さだ夢、セリフの長回しがバキバキに決まっていた藤谷理子、やたら機敏に動く金丸慎太郎が起用されていたのも嬉しかった。団長が出ると聞いて最初は「絶対パンツ総番長じゃん」と思ったがまさかのMCなのは驚いた。きっとヒップホッパーとして求められるところが大きかったのだと舞台を見てから納得した。それに韋駄天こたつの素早さにに団長の膝は耐えられないだろう。

 ミュージカル並に歌いまくる劇なんて作れたのか

作中でみんなが歌いまくるのには驚いた。上田誠Twitterで劇中歌の歌詞やセリフを公開していたけれどよくもまあここまで作れたものである。ヨーロッパ企画の舞台はエチュードからにじみ出たエッセンスが脚本になっていくといつか聞いたことがあるけれど、脚本ベースで書くとこんなものが生まれてくるのか。どんな作り方をしているのか大いに気になる。

ヨーロッパ企画の”劇を回す”という役割

劇の進行という点で土佐さんや石田さんなどヨーロッパ企画メンバーの働きはよく目立っていた。「このセリフきっかけだろうなー」というポイントもなんとなく伝わってくるし、見慣れた光景でなんだかほっとする。しばらく舞台を見られなかったのもありなんだか感傷的な気分にさえなった。

酒井君の未来ガジェット風の発明や航時法は出てこなかったけれど舞台は”物理的に”回っていたし、映像を使った演出や美術は僕にとっては目新しくて新鮮だった。この辺にリソースを割くことができるのはさすがテレビ資本の舞台である。なんなら実写映画化までするんじゃないかとさえ思った。そしていつか金曜ロードショーで流れるんだ。

竹中直人竹中直人感と久保史緒里の見覚え

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今作で一番注目していた竹中直人は、実によく動き、必要十分な情報量の芝居をする人だった。しっかり注目を集めているのに悪目立ちはしないし、中途半端な存在感で場の流れを散らすこともしないし、終始「しっかりしてるなあ」と思って見ていた。直前に劇パト2を見て「あー、今度この人見るのか―」と余計なイメージを作っていたのに実にスマートでかっこよかった。前述の土佐さんや石田さんが要所要所で物語の進行を引っ張るのに比べると、竹中直人は流れるようなお芝居をしていた。そして革ジャンの良く似合う人だった。

久保史緒里は前情報が「乃木坂の人」しかなく、「どんな人なんだろうなあ」と思いながら開演を待っていた。始まってみるとキラキラしてるしハキハキ喋るしテキパキ動くし「うわあちゃんとしてる」というバカみたいな感想を抱くことになった。「ちゃんとしてる」は僕にとっての最上級の誉め言葉なので言い換えれば絶賛である。かつて上坂すみれAC部のイベントで見た時も「しっかりしてるなあ!」と感心したものである。

終演後、帰りの電車で「乙女役のあの子、どっかで見たことある気がするぞ」と思って自宅の本棚を漁ると、唯一持っているグラビア雑誌の表紙が久保史緒里だった。1年前に表紙買いしてほったらかしだったけれど、ここから1年で乙女のあのキラキラした姿になるなんて恐ろしい娘!である。それに己の先見の明も恐ろしい。いったい何を見通していたのやら。

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今回の座席は前から3列目ぐらいだったのだが、最前列にいた久保史緒里ファンっぽい人が双眼鏡でずっと久保史緒里を追っていて、あれはなかなか見上げた根性だった。最前列が取れてその上双眼鏡まで使うとは実に贅沢な楽しみ方である。あとカーテンコールの時に拍手でなく手を振るってのがアイドル文化圏っぽくて新鮮だった。僕もぐったりした団長を拝んでいたのでいろんな楽しみ方があるものだ。

やっぱり演者が見えるってのは素晴らしい。久しぶりに見たお芝居が「夜は短し歩けよ乙女」で本当に良かった。上田誠の演出だし、ヨーロッパ企画界隈のメンバーも見られたし、会場であの楽しさをみんなで共有するというのはやはり貴重な体験である。このライブ感は何物にも代えられない唯一無二のものだ。そりゃあ手も振るし拝みもするよ。さてブルーレイを予約しよう。

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