TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

映画「ペンギン・ハイウェイ」アオヤマくんの世界は誰よりも明るい

森見登美彦氏のペンギン・ハイウェイがついにアニメ映画化された。四畳半神話大系のテレビアニメ、夜は短し歩けよ乙女のアニメ映画化に続いての映像化である。今まで京都の腐れ大学生ばかりがアニメになっていたが、実は森見登美彦の世界は四畳半の下宿の中だけには留まらない。

ペンギン・ハイウェイ」の主人公は小学4年生のアオヤマくんである。彼は大変かしこいので、ペンギンたちが一列に進む道が「ペンギン・ハイウェイ」であることをきちんと調べ上げることができる。そしてアオヤマくんの周りにはおっぱいのすてきなお姉さんや同級生やペンギンたちがいる。舞台は近鉄沿線のベッドタウン。だからアオヤマくんの空は京都の腐れ大学生の空よりもはるかに広く明るかった。

アオヤマくんが出会うのはお姉さんとペンギンと不思議と研究である。子供向けのアニメ映画かと思われるかもしれないが、28歳の男が上映中アオヤマくんに「わかる!わかるぞ!アオヤマくん!君は正しい!」とエールを送り続けていた。 「ペンギンが町に出現する?ワクワクするなよあ!」「チェス盤越しのお姉さんのおっぱいが気になる?ドキドキするよなあ!」「ハマモトさんは君のことが好きなんだぞ!本当に気づいてないのかアオヤマくん?」僕は映画の中のアオヤマくんの存在を自分の中にも感じずにはいられなかった。

例えばアオヤマくんは研究に方眼ノートを使う。しかもツバメノートだ。このノートは中性フールス紙というたいへん高級な紙を使っており書き心地も素晴らしい。しかもアオヤマくんは筆記にボールペンを使う。きっと研究のごまかししや改ざんをさせないためだろう。おまけに野外での研究ではおそらくモレスキンを使っている。すでにいっぱしの研究者ではないか。僕がツバメノートを初めて使ったのは高校生からだったしボールペンを常用するようになったのは大学生になってからだ。アオヤマくんの文具を選ぶセンスには敬意を払いたい。筆箱が多段式なところも機能美を追い求めたバウハウス的な発想によるところだろう。これだけでアオヤマくんがとても見所のある少年であることがわかっていただけるはずだ。

映画化に伴い割愛された描写やエピソードも当然ある。しかし原作を愛する気持ちを脚本家の上田誠氏は丁寧に汲み取ってくれていた。読者への優しさ、作品への愛が映画から溢れているようだった。お姉さんのあのセリフ、アオヤマくんの最後の言葉。エンドロールに流れる宇多田ヒカルの「Good night」を聞き終わったとき僕は喜びで爆発しそうになった。「そうだ!これがペンギン・ハイウェイだ!僕が愛したペンギン・ハイウェイが映画になったんだ!」もちろんネタバレはできない。しかし原作を読んでこそ楽しめる味を仕込んだ上田誠氏はつくづく物語の神様と仲が良いらしい。ありがとう上田氏。森見登美彦作品の脚本のみならずヨーロッパ企画サマータイムマシンワンスモアまで書き上げてあなたの脳みそはこの暑さで溶けていないか心配だ。

アオヤマくんの眼はいつもキラキラしている。アオヤマくんの眼を通して見たペンギンを、お姉さんを、書き上げた研究ノートを、どうかあなたにも見てほしい。そして幸せな気持ちで家に帰り、それを抱きしめながら眠ってほしい。眠りの中で映画のシーンを一つひとつ重ねながら、あなたのエウレカを見つけてほしい。

ぐんない

映画:ペンギン・ハイウェイ

 

単行本は発売日に買って、その日のうちに読んでしまった。あの時の体験をもう一度できたことが本当に嬉しい。