TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

映画『昭和歌謡大全集』ババアとオタクの殺し合いは最高のエンタメ

ババアとオタクが殺しあう。思い出の曲を口ずさみながら。

ババアとオタクの最高の地獄絵図

昭和歌謡大全集村上龍原作の小説だ。1994年発刊。映像化は2002年。小説を10年前に読んだ時は、「村上龍はサクサク人を殺すなあ」と思っていた。いつの間にか映画化されたおかげで、題材の歌謡曲も一緒に聞くことができてなんだかお得な気分だ。あと当たり前だけど、映画なので勝手に物語が進んでいくところが小説よりも断然楽でいい。

この映画はオタクがババアをふとした拍子に殺し、ババアの仲間たちがそのオタクを殺し返し、オタクの仲間がまたババアを殺すという地獄絵図が繰り広げられる。ババアは全員小金持ちで癪に障るし、オタクは全員社会の爪弾き者だ。しかし復讐の連鎖の中でお互いのコミュニティは団結し、洗練されていく。その洗練されていく過程でコミュニティは同時に崩壊もしていくが、狂気じみた復讐の応酬は何故か愉快で、そして最後はきちんと終わる。観終えた時は満足感でいっぱいだった。

 

一生懸命な人は、ババアでさえ美しい

最初のババアが殺された時、ババアの仲間たちは、亡くなったババアの復讐を果たすべく綿密に計画を立て始める。犯人の特定から行動パターンの分析、殺し方や武器の選定まで徹底的に考える。ただ全員の名前が「ミドリ」で趣味がカラオケというだけのつながりしかなかったババアたちは、復讐という目的の元に連帯し、行動を始める。作品の中で原田芳雄が「ババアは進化を止めた生き物」と発言していたが、仲間の弔いのために行動するババアたちは、なぜか生き生きとして、楽しそうだった。冷えた体を動かすことで血が巡り、肌の発色が良くなっていくように、ババア達も行動することで人としての「進化」の流れに再び乗ることになったのだろう。一生懸命な姿というものは、それがババアでさえ美しく見える。

 

ゼロ年代の邦画を青春にすべきだったかもしれない

映画が公開された14年前、当時20歳だった松田龍平は今は33歳で、当時27歳の市川実和子は今は40歳だ。原田芳雄に至ってはもう亡くなってしまった。この時代の邦画は、90年生まれの自分になんとなく合うような気がした。2004年公開の「きょうのできごと」「下妻物語」「パッチギ! 」も好きだ。感動や学びを無理強いしてこないところが、逆に映画を意欲的に観ようと思わせているのかもしれない。10代の頃に映画を見ることなんて全く無かった。その頃にはYoutubeやらニコ動が登場していたから、映像コンテンツはそれだけで十分だった。でも仮に10代に映画漬けの日々を過ごしていたとしても、結局今とは少しだけ趣向の違うオタクに落ち着いていたことだろう。むしろ映画の薀蓄なんかを語りたがる厄介者になっていたかもしれない。映画を趣味にしたとしても、感想を語り合うくらいならここに書き殴るほうが断然楽しく、色んな意味で安全だ。本当に観たい映画は一人で観たほうが良いし、そうでもない映画は最初から観ないほうが良い。特にこの映画は絶対に家族で見てはいけない。

小説版『昭和歌謡大全集』

劇場版『昭和歌謡大全集』