TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

オタク高校生のフリーメイソンこと図書委員会

高校3年生になるまで学校の図書室というものを使ったことがなかった。高校生だったころの放課後は、さっさと家に帰るか、時折写真部の暗室に篭って酢酸の匂いの中でモノクロフィルムを現像するしかやることがなかった。

しかし高校3年生になれば大学受験がどうこうという話があちこちから聞こえるようになり、友達はみんな塾なり予備校に通い詰めるようになっていった。塾や予備校への興味も、受験への危機感もなかった僕は、「勉強はしたほうが良いだろうがする場所がない、家だとだらけるしどうしたものか」と考え、そして「図書室で居残り勉強する」という活路を見出した。田舎ではカフェで勉強するという文化も当然ないし、椅子も机も枯渇しているので、居場所を確保するだけでも難しい。

でも居場所があっても勉強をする気になれなかった。理系のクラスに入ったのに数学が一切理解できず、早々に文転して建築家の夢を諦めた。典型的な落ちこぼれだ。ビリギャルならともかく、落ちこぼれのオタクなんてどんなサクセス・ストーリーを歩んだって映像化できない。

とりあえず通学鞄の中のチャート式に手を付けたくはなかったし、せっかく図書室にいるんだからと本を読んでみることにした。小説の棚のま行の作家から読み始め、万城目学村上春樹村上龍群ようこ森博嗣森見登美彦の作品はあるだけ全部読んだ、そこから画集やらエッセイやらラノベやらいろいろなジャンルの本を読んだ。そのおかげで本が好きになった。高校3年生の春のことだった。

図書室に通いだしてからは、勉強そっちのけで本を読んだ。活字を頭のなかで映像化してみたり、アニメ化してみたり、とにかく考えながら本を読んだ。その流れで国語と地理Bの参考書を読んだ。おかげで模試は国語で校内3位、地理Bは県2位まで取れるようになった。英語は平凡だったけどリスニングは余裕だったから人並みの点数は稼げるようになった。大学はこの3教科で突破できるところを受験することに決めた。春から秋の終わりにかけて、1日1冊本を読んだ。500ページなら一晩で読めることや、つまらなければ読むのをやめてもいいんだということを学んだ。

本の世界に逃げ込んでいるうちに雪が降り、受験が過ぎ、卒業式を迎えた。図書館からのお知らせのプリントに、卒業生の借りた本の冊数のランキングが載っていた。僕は320冊余で、3位だった。卒業証書より図書館新聞のプリントと司書の先生から貰った貸出カードのほうが、高校生活を送った証のように見えた。