TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

出張とアイスクリームと書くこと

出張帰りの道中、僕はかならずアイスクリームを食べる。疲労回復には糖分が不可欠だし、移動中に仕事をするためには、尚の事糖分は補給して於かなければいけない。出張だからといってその土地の食べ物がどうとか地酒がなんだとか考えず、自分の仕事をするためだけに頭を使うようになって、なんだか自分がつまらない人間になってしまったような気もするが、そもそも公私混同できるほど器用な真似ができないので、これはしょうがないと言う他にない。

6月の半ば、梅雨入りかと思わせる長雨の降る島根から京都へ帰る特急列車の中で、僕はいつもどおりアイスクリームを食べていた。普段はあまり乗客のいない山陰を走る特急列車だが、この日はそれなりに乗客がいるようで、席は三分の一ほどが埋まっていた。大半はサラリーマンで、残りの何組かが老人だった。若い人は見たところいないようであった。私は窓側の席に座りアイスクリームを食べながら、通路側の座席に置いた出張用の大きなカバンの中にあるはずの、処理すべき仕事の資料を探していた。その目線の先、私の席からと反対側の窓側の席に座る男の姿が目に入った。歳は僕よりは明らかに上だが、風体を一瞥するだけで僕と同じようにサラリーマンであることは明らかだった。男の席のテーブルにはタブレット端末と、僕と同じようにアイスクリームが置かれていた。僕のものよりは幾分か小ぶりだが、きっと彼の方が高価なものを食べているだろうことは容易に想像できた。いつも僕が食べているアイスクリームはコンビニでひとつ140円で買ったものだったからだ。コンビニで買い物をするのに値段で躊躇することはないが、できる限り安いものを求めてしまう貧乏性は中途半端に残っている。しかしこれもまたしょうがないという他にない。

仕事を始めて5年目を迎えた。しかし相変わらず自学自習、独立独歩で勝手に仕事を進めている。人を使うことと念押しと段取りと手の抜き方を覚えて多少仕事ぶりは変わったが、文字を書くことだけは仕事だろうと私生活だろうと変わることがない。ノートにアイデアや原稿を書いたり、毎日日記を綴ったり、ときおり手紙をしたためたりしている。僕の字はお世辞にも綺麗とは言えないし、表現力だってまるで磨かれていない。しかし文字を書くという行為自体は、生きていくうえで欠かすことのできない要素になっている。書く前に考え、書いた文字を読み、読んでまた考える。このサイクルが私案なり私見なりをより磨き、明瞭にしてくれる。アウトプットと一言で言えばそれでお終いであるが、そこに含まれるものについて述べようとすると、きっと月刊誌のエッセイくらいの長さになるだろう。そしてこの行為とプロセスと成果物全てが僕にとってどれだけ貴重な精神的支柱であることか。これはしょうがないで済むものではない。

そして書くためには、やはりアイスクリームを欠かすことができない。