TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

ミカン畑でつかまえて

もしも君が、ほんとにこの話を聞きたいんならだな、まず、ミカンがどこで生産されているとか、どんなみっともない指の色をしていたとか、僕が生まれる前にミカンが何をしていたかとか、その手のポン・ジュース的なしょうもないあれこれを知りたがるかも知れない。でもはっきり言ってね、その手の話をする気になれないんだよ。

冬になるといつも誰かがミカンを配っている気がしないか?その”誰か”ってのは大抵実家や親戚がミカン農家で、毎年段ボールいっぱいに入った(どう考えても1人で食べきれる量じゃない)ミカンを送られてきていて、そいつ自身じゃどうしようもないから、周りにミカンを配りながら在庫を片付けてるんだ。

僕自身、親父の方の実家がミカン農家だし、同僚の実家もミカン農家だし、取引先の実家もミカン農家だから、この時期は常に誰かがミカンを配り歩いているんだ。こうした”ミカンサプライヤー”みたいなのがいるおかげで僕らは柑橘類を店で買わずに済む。これだけは良いところと言ってもいいかもしれない。

ただ僕を含めてこの辺りには3人もサプライヤーがいるおかげで僕らの周りにはミカンを受け入れる余力がほとんどない。でも僕らとしてもミカンをダブつかせるわけにはいかないから、最近はマイナス価格を付けた原油市場のような状態なんだ。誰でもいいからミカンを引き受けてくれ!ってね。

ちなみにミカンを美味しく食べる方法って知ってるかい?ミカンを手のひらにたたきつけるんだ。グローブにボールを投げ込むみたいにね。ここにいくつかミカンがあるからやってみるといい。食べ比べるために叩きつけるミカンとそうじゃないミカンを用意しておこう。あとは誰かに食べさせるためにもう1セットだ。よし、じゃあそれを君にあげるよ。別に礼はいらない。伊達直人でもあしながおじさんでもいいから、とりあえずそれを受け取ってくれ。むしろ君が好むと好まざるとにかかわらず、このミカンたちは君のものなんだ。

だから君がどうしようもない理不尽や悪意に立ち向かわなくちゃいけない時に、さっき教えたミカンの美味しい食べ方を思い出してくれ。そこに含蓄や学びがあるかは分からないけれど、美味しいミカンを食べれば少しは気がまぎれるだろうし、僕もミカンの在庫が減って助かるからね。