TANNYMOTORS

人の味を知った熊は再び人里に降りてくる。

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演してもSFは維持できるし大型アップデートだってできる

2016年9月、ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」を栗東で観た。

そして2024年9月、ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」の再演を栗東で観た。

台風10号が来るとか来ないとか、進路が決まらないとか消滅するとかでレンタカーまで借りて備えたけれど、結局薄曇りの栗東で再び上田誠の新世界を覗くことができました。

再演を観るという経験がほとんどなく、しかし公演DVDも戯曲本も擦り倒しているから今回はどう楽しめばいいかなと思っていたものの、いざ開演してみればさすがヨーロッパ企画は面白い。前回との違いや馴染んでいる板尾創路を噛みしめながらの2時間は相変わらずあっという間でした。

以下は感想と前回からの主なアップデート内容です。

角田貴志の筋肉が大きくなりました
クリーニング屋役の角田君の筋肉が大きくなりました。衣装のタンクトップが「新世界のおっさんだから」ではなく「筋肉を見せるため」に選ばれたのではないかというくらいデカい。登場した瞬間に隆起した上腕二頭筋を見て思わず笑いました。明らかにクリーニング屋の筋肉ではないのです。野良ロボットたちがやってきて仕事する必要もなくなり、店の2階で引きこもるような奴がそんな逞しい肩を持つわけがないのです。中川君のタブレットを投げ捨てた時は粉砕するんじゃないかと思うくらいのスピードが出ていました。相手の動きが読めるアイテムを装備してカウンターを決めるところなんてもうSF漫画のロボットボクサーです。しかも重量級のハードパンチャー。前作から今までずっと人をさらい続けているんじゃないか?

永野宗典が本当にドローンに狩られます
乞食役の永野君が本物のドローンに追われます。かつてはドローンの模型がバトンの上で揺れていただけなのに、あの「ふぃーん」という羽音を立てたリアルドローンが永野君に襲い掛かります。きっと杉浦君あたりが操縦しているんでしょう。免許を取ったりもしたんでしょう。舞台の仕事も未来になってきたなあ。

酒井善史がよりオタくなりました
テクノ役の酒井さん、タブレット越しに登場し、串カツ屋の娘にガチ恋してドローンで通い、振られても恋敵が死んだ設定のバーチャル空間で純愛生活を送り、ソースを空からまき散らし、そして全体的にオタい言動を振りまく様子が、これまで以上にオタいです。でも嫌悪感を抱く気持ち悪さではありません、フットワークが軽すぎてちょっとした爽やかさのあるオタさがテクノであり酒井君なのです。しかしタブレット越しに人と話すのが当たり前の世の中になるとは誰が思ったでしょう。8年前はタブレット酒井君をみんなで笑っていましたが、今年はみんな「あー、酒井君が飛んでらあ」とすんなり受け入れていました。これが8年の重みなのか。それでいいのか人類。

藤谷理子が看板役者になりました
串カツ屋の娘役の藤谷さん、8年前は客演なのにセリフ量がべらぼうに多くて「もうこれ主役じゃん」と思っていたらいつの間にかヨーロッパ企画のメンバーになっていました。実家で撮った映画「リバー、流れないでよ」も前作に引き続き海外を中心にヒットしています。ヨーロッパ企画での立ち位置も板につき、今じゃ文字通りの看板役者です。

金丸慎太郎は引き続き主人公風客演です
芸人役の金丸君は相変わらず主人公みたいなオーラを出しています。ですが今も扱いは客演です。毎回ヨーロッパ企画の公演やイベントに出演しているし、劇団のブログに熱い文章を綴っているのになぜか客演のままです。きっと何か闇があるに違いない。でも引き続きヨーロッパ企画に出続けてほしいな。

なぜか板尾創路がいます
板尾創路が串カツ屋の親父役で出演しています。理由は分かりません。しかも普通に馴染んでいます。かつて「夜は短し歩けよ乙女」で竹中直人を見た時は「みんな自転車なのに一人だけハーレー乗ってる?」というくらい目立ちまくっていましたが、板尾さんの場合基本的に串カツ屋の2階から一升瓶を抱いてうにゃうにゃ嘆いているので舞台にメチャクチャ馴染みます。でも所作や台詞回しで舞台に飲まれないあたりが芸の人なんでしょう。

ワインが0円になりました
前回から8年の時を経てあの店のワインが1円から0円になりました。ありがとうサイ○ーゼリヤ。串カツなんて胃もたれしてしょうがないですからね。毎日玉ねぎのズッパとかバゲットを食べて健康に生きていきたい。できればドローン生協やドローンUberで家まで届けて欲しい。この辺はあと8年あれば実現してそうな気もする。

本当に8年経ちました
人は年齢を重ねると1年の長さが相対的に短くなっていくので、8年ぶりの再演と言われても最初はピンときませんでした。しかし現実として8年も時間が経てば世の中はいろいろと変わるもので、ドローンは当たり前になってむしろ電動キックボードの方が危ないと言われ、健康状態はスマートウォッチでクラウドに保存されるのに日々の食事は自分で記録してアプリのお姉さんに気を遣うようになりました。歴史の”積み重ね”とはよく言うけれど、どちらかと言えばデコボコ道がさらに鋭利になったような気がします。

もちろん自分自身だって8年あれば変わるもので、お腹と眼鏡は丸くなり人柄は朗らかで親しみやすく、毎夜吐くまでお酒を飲むようなこともなくなりました。しかし性根と毛根は昔と変わらず土佐の海のようにうねったままです。

これからの8年はどうやって過ごそうか。そろそろシンギュラリティだって起こるだろう。それに耐えられるもの、あるいは対抗しうるもの。

あ、もしかして、ゆえに、筋肉?

 

そういえばビールケースって進化しないなあ