<前>
四国カルストの上で朝5時に目覚める。標高が1400メートルあるだけあって寒い。そしてテントは盛大に夜露で濡れている。こういうときにダブルウォールのテントにして本当に良かったと思う。朝食やら荷造りはさっさと済ませ、テントだけ干すために建てたままにして、またあたりを道を走ったり写真を撮ったりしてしばらくカルストを独り占めにした。当たり前のように雲海を見ていたけれど、これが全面に広がっているのはなかなか雄大だ。
牛が牛舎から出てくるのを見ながら出発したのは6時30分ごろ。キャンプがメインならここから火をおこしたり朝食を作ったりするんだろうけれど、知らない道を走りたい欲のほうが勝っていたのでこの日は誰よりも早くキャンプ場を出た。この日の目的地は松山市。大洲で温泉に入って下灘駅に寄って松山入り。宿は定宿にしているビジネスホテル。距離は約150キロ。カブに乗って疲れない程度に移動できる距離はこれぐらいが丁度である。
ルートは四国カルストを西に抜けて国道197号線に合流して大洲入り、川沿いに海に出て国道378号線を松山まで進む。月曜日だったので一気に交通量も減ってすいすい走り抜けることができた。四国はバイクで走るには最高の土地だ。
昼食は日本海に出てすぐのエリアで見つけた食堂の天丼。「伝説の天丼」だか「噂の天丼」だかそんな名前が着いていたが、揚げたての天ぷらが乗っていたのでとりあえずきちんとした天丼だった。
下灘駅には午後1時ごろに到着。「海に一番近い駅」みたいなニックネームが着いていたり、いわゆる映えるスポット扱いされているが、個人的には青春18きっぷのポスターの駅というイメージ。無人駅だしホームも入り放題になっていた。貢げそうな場所が見当たらなかったので自販機で飲み物を2本買ってお茶を濁した。撮影していたら列車が来たので一応撮っておいた。これを「電車」と呼ぶと「汽車だろ!」という罵声と共に後ろから鉄オタに殴られるので鉄道は扱いが大変むずかしい。
下灘駅はホームの前が国道、そして海という立地なので、ベンチどころかホームのどこにいてもオーシャンビューが楽しめる。そして下灘駅から見える青島は猫がべらぼうにいる島とのことだ。夢を見させててくれるじゃないの。
お上りさん気分全開であるが実は下灘駅に来るのはこれが2回目だ。ただ初めてきたときは車に乗っていたので気づかなかったが、この海沿いの道で感じる潮の香りは今まで走った瀬戸内や日本海とはどこか違うような気がした。海の向こうが山口県だからかもしれないし、嗅覚が狂うほど楽しかったからかもしれない。そしてこの道も走りやすく見通しも良い素晴らしい道だった。
楽しい道はあっという間に走りきって、3時ごろには松山に到着してしまった。ホテルに荷物を入れてそこから市内をぶらぶら走る。松山は出張で何度も訪れているし、いまさら新発見も何も無かろうと思ったら道後温泉が改装中で、足場の組み方は寺社仏閣の修繕工事のようでびっくりした。それに人が全くいないし周囲のホテルはことごとく休業中だった。平日とはいえほぼ無人で少し怖い。
あともう一つの新発見が、道後温泉から徒歩5分のコンビニから見える全フロア全部屋風俗店のビルである。1階の手前が案内所。その奥と上のフロアは全部風俗店。建物の名前は「道後ヘルスビル」。風俗店って本来わかりにくい場所にあるものかと思っていたが、風俗専門ビルだなんて合理的と言うべきなのか何なのか。観光旅館やホテルに隣接してるのでデリバリーもやってるんだろうな。そして案内所の前のキャッチは気の毒なぐらい暇そうだった。おのれコロナめ。
夕飯は愛媛大学のそばにある「さくら食堂」のチキン南蛮定食。チキン南蛮界隈ではここが一番美味しいと思っている。泊まり出張で松山に来たときは必ずこれを食べているから、文字通りの定食だ。これが胃もたれするようになったら衰えを実感してさぞ悲しくなるだろう。
ちなみに宿も松山出張定番のビジネスホテルにしたが、夜中にGなヤツが出て部屋を変えてもらう惨事になった。古い宿だから仕方と思うし、部屋はフロアごと変えて1ランク上の部屋にしてくれたけれど、正直泣きそうになった。キャンプしてるくせに虫は全くダメなのだ。悲しいどころの騒ぎではない。凄惨な夜であった。とりあえず松山はしばらく行かないようにする。
<つづき>