『十三機兵防衛圏』がとんでもなく面白いという噂をTwitterで聞いて数ヶ月。たぬきに負債を負わされるゲームばかりやるのも気に入らないので、ついにプレイしてみることにした。
ジャンルはアドベンチャーゲームらしくネタバレはなんとしても回避したかったので、公式サイトも体験版も見ずに購入し、片付けていたPS4をクローゼットから引っ張り出して電源を入れた。
気がつくと、4連休の初日から最終日まで40時間近く遊び続けていた。手元にはキャラクター名やキーワード、相関図のような矢印のメモ書きが残っていた。攻略サイトやwikiも使わず、これだけ物語に没入できるゲームなんてきっと初めてだと思う。とんでもない作品に出会ってしまった。
13人の別々の物語が1つの物語になる快感
この作品の大まかなストーリーは「13人の少年少女が機兵と呼ばれるロボットに乗って怪獣と戦うまでの物語」である。
ただそれぞれの目的や思惑は全員違っていて、ロボットに乗るまでの過程もバラバラ。おまけにタイムトラベルまでするから時系列も飛び飛びだ。それでも物語を進めるにつれて伏線が繋がり、謎が明らかになり、最後には全容がきちんと分かるように組み立てられている。
この13人の物語を破綻させることなく、むしろバランス良くリンクさせながら1つの大きな物語になっていく様子は最高にワクワクさせてくれる。普通の物語が時間軸のみで進行してく平面的なものだとすれば、『十三機兵防衛圏』は13人分の物語が同時並行で進んでいく立体的なものだ。2000年の怪作ガンパレード・マーチが遠縁の親戚にいるかもしれない。
ゲームだからこそできる自由なプレイとクリエイティブパワー
13人のストーリーの進め方はほとんど自由で、進行具合によるロックが数箇所ある以外は好きなキャラクターの物語を好きに読み進めることができる。おまけにアドベンチャーゲーム特有の、「同じ話を周回してフラグを回収」なんてことが無いように、分岐やキーワードも明示されていてサクサク進めることができる。しかも1シーン10分程度のオムニバス的な作り方がされているので、途中で飽きることなくテンポよくプレイすることができる。
だから攻略サイトも必要ないし、普通に遊ぶだけで物語が踏破できるようになっている。大きなストーリーは1つだけだからそこはある意味当然だけど、13人の物語を自分で自由に進めることができるので、不自由さは全く感じなかった。むしろ自分で全容をつかんでやろうとメモを取るぐらいだった。
ちなみにこの「物語パート」以外にもいわゆる「アーカイブ」的な部分があるので、完結後にそれを読みながらおさらいができるので2度楽しい。
ゲームだからこそ自分で好きにストーリーを選びながら進めることができる。そりゃあゲームなんだから当然のことだけど、物語を主軸にしたアドベンチャーゲームとしては間違いなく最高傑作の1つになる。
漫画やノベル化してほしいなと思いつつも、このプレイ感はやっぱりゲームというスタイルでなければ味わえない。ゲームとしての一番おもしろいところを味わうことができた。これ作ったクリエイターは歴史に名を残すに違いねえ。
あらゆるシーンが絵になるデザイン
水彩画風に描かれたキャラクター。立ち姿から歩き方まで十人十色の専用設計。二次元的に描かれているマップのどこにキャラクターを配置しても1枚の絵として成り立つ表現力の高さ。デザイン力の高さに思わず笑ってしまった。
キャラクターが操作できるようなゲームの場合、大抵は全員同じモーションで動くのが普通なのに、十三機兵防衛圏の場合は全員歩き方から異なっている。スケバンの鷹宮由貴が歩くときは胸を張って肩で風を切り、陸上部の南奈津乃が走るときは大きなストロークで駆けていく。小さな所作からきっちり描きこまれていて、いわゆる「差分」的な存在も一切感じさせない妥協のないデザインに見とれてしまった。どれだけ丁寧に描いているのか想像もつかない。
ゴールデンウィークは十三機兵防衛圏をプレイするためにある
人を選ぶ作品なんてのも世の中にはたくさんあるけれど、十三機兵防衛圏は間違いなく万人に自信を持って勧められる名作だ。体験版からでもいいからプレイしてみてほしい。でも体験版のプロローグだけだと「分からない」しか分からない。ストーリーの「繋がり」がほんの少しでも見えたら、そこから一気に物語に飲み込まれて行くことになる。ゴールデンウィークに家に引きこもるなら、無人島でたぬきに借金を返すのもいいけれど、ロボットに乗る13人の物語もぜひ体験して欲しい。数年に一度しかない、魂の震える作品との出会いだった。