TANNYMOTORS

一度人を食らった熊は、その味が忘れられず再び人里に降りてくるという。つまりバイクの日記です。

スマホ画面と引き換えにタウシュベツ川橋梁と然別湖を手に入れた<北海道カブツーリング4日目>

<前>

 

 旭川の快活クラブで一夜を過ごして朝6時に出発。撤収がない分キャンプする場合より素早く出発できるのはネカフェ泊のいいところだ。朝食は3切れ目のみそぱん。エネルギー源としての優秀さが抜群だ。もし北海道を再訪することがあればきっとまたみそぱんを買うことだろう。ありがとうみそぱん。

今日はまず旭川から150キロ先の上士幌町にある「十勝西部森林管理署東大雪支署」に向かい、そこで林道の鍵を借りてその先にある「タウシュベツ川橋梁」を見る。そして夜はキャンプだ。

事前に考えていた行きたい場所リストの2つ目がこの橋梁である。ただし橋梁へ至る林道の鍵には限りがあるので、ひとまず管理署が開く時間に合わせて出発することにした。念の為にルートを確かめようネカフェの駐車場でスマホを取り出したらうっかり地面に落としてしまった。「ひええゴツいケースにしといて良かった」と思いスマホを拾い上げてみると画面全体が粉砕していた。

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そこから先のことはあまり覚えていない。無心で走り続け、9時前には上士幌町に到着できた。管理署で場所の説明やらサインやらを済ませて林道の鍵とA4の許可証を借りた。許可証はバイクだと掲示できないのでサイドバッグにしまい、鍵はキーチェーンにつけた。これで林道に入れるわけだ。スマホはバキバキだけど。

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林道は二輪車じゃ走るのが大変そうだと思ったけれど、前を走る大型のアドベンチャーバイクは割と快適そうだった。そもそもクロスカブでもハンターカブでもない普通のカブは林道走行を想定していないだろう。自転車より少し早いくらいのスピードで林道を抜け、駐車場のようなところに出てそこからは徒歩で橋梁へ向かう。木々のトンネルの先は眩しくてなかなか様子が見えないし、道には倒木が転がっていて歩きづらい。おまけにスマホはバキバキだし。

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道を抜けると一気に景色が開けた。そこは絶景であった。走行中はなるべく橋梁のある糠平湖の方を見ないようにしていたのもあるが、目の前の景色が想像より遥かに綺麗で笑ってしまう。タウシュベツ川橋梁糠平ダムの水位により沈んだり現れたりする。ただこの年は水位の上昇が遅いようで、9月上旬でも橋梁の周りには草が生い茂り、スマホもバキバキだ。

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橋梁の周りを歩いたり、腰を下ろしてぼんやりしているだけなのに最高に楽しい。橋梁の劣化は年々進んでいてところどころ崩れたりしているし、橋の近くや上部は立ち入り禁止になっている。見るなら今しかないと思いながらほったらかしていたけれど、とにかく最高の景色を堪能できた。あとガルパン劇場版にもこの橋(によく似ているもの)が出てくるので聖地巡礼もできた。訪れる難易度はタウシュベツのほうが高いのに大洗より先に来ることになろうとは。勢いでもなんとかなるものだ。バキバキのスマホも少しだけ許せた。

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時間はお昼ごろ、林道の鍵を返して上士幌の道の駅でお昼を食べつつツーリングマップルをめくる。どうやら近所の高原にデカイ牧場があるらしい。快晴ゆえに地味に暑いこの場所を離れて高原で涼みながらソフトクリーム、即決して高原へ向かう。いつの間にか道は上り坂になり、左右どちらを見ても牛がいる。そしてナイタイ高原牧場に到着。ここもまた絶景だ。おそらく東の方角を見ているはずで、その先には釧路、根室、知床があるはずだった。今回のツーリングではそこまで回りきれないけれど、北海道にはまた来ることになると思いながらソフトクリームを買った。周りがカップルだらけだったのでカブのシートで食べることにした。センタースタンドがついているバイクはこういう時座れるから便利だ。どういう時なのかは知らんが。

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キャンプ場には日が沈む前に到着することができた。今回泊まるのは「然別湖北岸野営場」というストイックかつ分かりやすい名前のキャンプ場だ。野営場なので設備は炊事場とトイレのみ。電気はない。ゴミ箱も無し。そして圏外。最高にちょうどいいキャンプ場だ。この時は私以外に2人しかおらず、夜になれば物音一つしない真っ暗な闇を味わえた。料金はたったの250円。夕方に管理人が来るのでそのときに払いに行くスタイルのようだ。

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設営も上手くできた。このときばかりは焚き火で遊びたくなったけど、我慢しながらランプの炎を少しだけ大きくした。それでも十分楽しい。明日電波が拾えたら、新しいスマホを注文しよう。今度はガラスフィルムも一緒に買うんだ。

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毎晩北海道限定のサッポロクラシックを飲んでいる気がする。そしてスープを作り忘れて普通にお湯で作ってしまった。正しくは湯切りのお湯を使うらしい。

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それにしてもクッチャロ湖といい然別湖といい北海道の湖はどれも綺麗だ。きっとこれが本当の湖なんだろう。うちの近所に琵琶湖があるけれど、実は琵琶湖は湖じゃなくて河川だ。みんな琵琶湖に騙されてはいけない。

<つづき>

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全ては旭山動物園のために<北海道カブツーリング3日目>

< 前>

朝6時、日の出と共に目が覚める。キャンプツーリングの生活サイクルは太陽と同期することになる。テントの中が明るくなれば目も覚めるし、日が沈んで暗くなれば眠たくなる。キャンプのためのツーリングだと焚き火だ料理だとアクティビティを詰め込めるが、ツーリングのためのキャンプだと設営して食事を済ませたらさっさと寝てしまう。そのため今回のツーリング道具にはメスティンや焚き火セットが含まれていない。食事はセイコーマートに行けばいいし、焚き火よりも星を見たかったのでこれでも不自由は一切ない。おかげでボックスがスカスカになってしまった。旅慣れると荷物が減るのはバイクでも同じのようである。

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撤収の途中でクーラーバッグで冷やしておいた「カツゲン」と、フェリーで買った「みそぱん」を食べた。なんとなく買って保存食的な見た目をしているみそぱんだが、その実食べてみると甘い香りとわずかな味噌の風味がしっとりした生地に練り込まれていて大変美味しい。カツゲンは北海道限定の飲み物らしく、牛乳要素のあるカルピスといった感じである。どちらも旅に大切なエネルギー源という感じがして頼もしい。

朝食を食べた勢いで撤収も済ませる。キャンプは人がいた痕跡を残さずに去るものだと個人的に思っている。そのほうが次来る人も快適だし、こっちも撤収に気合入る。間違って焚き火跡なんて残した日には「焚き火の跡…乾燥してまだ暖かい…!探せ!まだ遠くには行っていないはずだ!」と追跡者に察知されマ・ドンソク風の兄貴にぶん殴られるに違いない。

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撤収は済んだがもう少しやってみたいことが残っている。バードウォッチングだ。クッチャロ湖にはコハクチョウがやってくる。わざわざ道具に双眼鏡を加えていたのも「野生動物を見てみよう」という思いつきからだった。ちなみにみそぱん1切れではちょっとお腹が寂しかったので前日の夕飯を買ったセコマに戻ってカツ丼を買ってきた。朝8時前に食べるもんじゃないがもうここに時間の概念なんてない。

およそ30羽ぐらいだろうか、一応湖面に水鳥たちはいた。30分ほど双眼鏡を顔に押し当ててその姿を眺めていたが、みんな静かに水面に浮かんでいるだけで特に何も変化はなかった。そして人生初のバードウォッチングはほぼカツ丼を食べるだけで終わってしまった。私にはまだ早すぎる趣味らしい。

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さて出発だ。この時点で8時30分。浜頓別町から内陸部を走って旭山動物園に向かう。バードウォッチングは楽しめないが動物園は好きだ。天気はまあまあ。旭川市まではおよそ200キロ。寄り道しながらでも余裕の距離設定なのは昨日の400キロ爆走で証明済みだ。

北海道の道は相変わらず直線で長い。おかげで色々なものが目に入る。なぜか公園に自衛隊のF-104が展示してあったのでもちろん立ち寄った。1982年に退役した旨が機体にステンシルで書かれている。自衛隊の航空機にはステンシルで色々と書いてあるけれど、「GOOD-BYE」は初めて見た気がする。整備士の心意気みたいなものが伝わって来てなんだか嬉しくなった。大事にされてたんだろうなあ。

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内陸部は当たり前ながら畑が多い。遠くまで続くなだらかな土地に敷き詰められた畑、点在する作業小屋や家屋、本州では見られない景色が北海道にはある。無目的でも来てよかったなと心から思った。

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ところで走行中にバチバチと虫がぶつかって来る。9月上旬といえど秋の虫は既に跳梁跋扈していた。おかげでレッグカバーやらヘルメットやらを定期的に吹き上げなければならなかった。立ち寄るセイコーマート全てにウインドウォッシャーが並んでいたのはなるほど虫対策かと納得がいった。

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道の駅でおやつを食べたり接近する雨雲に怯えたりしながら午後2時に旭山動物園に到着。北海道固有の生き物たちを見るといよいよ知らない土地に来たんだという実感が湧いてくる。あとシカには本当に気をつけないと命の危険がある。あの角に突っ込んだら助かる気がしない。

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ペンギンもオウサマペンギンを見ることができる。今までアデリーペンギンフンボルトペンギンしか見たことがなかったけれど、オウサマを名乗るだけあってなかなかでかい。心なしか態度もデカイように見える。そしてアムールトラは今年三つ子の赤ちゃんが生まれたらしい。アムールトラファンとして見過ごすわけには行かない。結果として3時間の滞在のうち1時間以上アムールトラに費やしていたことになるが、一切の後悔はない。ただただ至福のときであった。そりゃあ日本一の動物園にもなるよなあ。

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 この喧嘩を閉園までずーっと見ていた。かわいいなあ。

 

<続き>

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宗谷岬まで突き抜けて。<北海道カブツーリング2日目>

<前>
朝5時の札幌。北海道に到着して早々にネカフェの世話になった。一部の限界ツーリング愛好者は快活クラブを実家と呼んでいるらしい。確かに最近は鍵付きの個室もあるし、その辺の簡易宿所よりはるかに豪華になっているからついそこに流れるのもよくわかる。

今日の目的地は日本最北端の宗谷岬、の途中にある留萌だ。札幌からはおよそ150キロ。寄り道しながら走ってもキャンプ場で夕焼けを眺めることができる計算だった。北海道初日なのでまずは「慣らし」である。

身支度を済ませてまずは札幌市内にある「平岸高台公園」へ向かう。ネカフェから出て10分足らずで到着したので北海道に来た感慨に浸るほどの暇はなかった。

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さてここは見ての通りただの公園である。だが写真の右奥に見える建物は旧HTB社屋。そしてこの場所は「水曜どうでしょう」の前枠と後枠のロケ地として使われている公園なのだ。水曜どうでしょうファンにとってここは聖地の一つになっている。私も水曜どうでしょうは好きだったが、「近所にあるらしいし一応寄ってみるか」程度の気持ちで来てしまったのと、時刻がまだ6時にもなっていなかったのでこの時は「あー、たしかにな」程度にしか思わなかった。もったいない楽しみ方だな。

そこから札幌市街を抜けて北へ向かう。ここでようやく今いる場所が北海道であることを理解した。地平線の彼方まで伸びる道、今まで見たことないくらい広い空、ただ走るだけでめちゃくちゃ楽しい。なるほどこれが北海道か。そりゃあ走りに来たくなるよ。道幅も広いし都市間の道に信号は全くないので止まることなく走り続けられる。これが「優勝」ってやつだ。私は今まさに「優勝」しているのだ。

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カブは順調に走る。むしろ順調すぎて、最初の目的地だった留萌の黄金岬キャンプ場に午前10時に到着してしまった。いくらなんでも早すぎる。ここは海辺の道路沿いにテントを張るスペースがあり、炊事場とトイレもあって料金は無料、しかも日没まで拝めるという素晴らしいキャンプ場だ。だが10時からテントを張ってキャンプというのはやはりもったいない。それに全然走り足りない。とりあえず写真だけ撮って、引き続き北へ向かうことにした。

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初日から予定を前倒すことになるとは思ってもいなかった。正直北海道の道を侮っていた。時速60キロ1時間走ったら1時間後に60キロ先の場所にいる。算数の問題に出てくるたかし君みたいなことになっている。

留萌の北にある「おびら鰊番屋」という道の駅で休憩していると、静岡から来たというおじさんが話かけてきた。軽バンで北海道を回っているらしく、今日の目的地は宗谷岬だという。現在地から宗谷岬まではおよそ180キロ、時速60キロで走れば3時間で着く計算だ。机上の空論としか思えないが、それが成立するのが北海道である。

延々海沿いを走るのに飽きてきたので、少し内陸部を走ることにした。風に煽られることもないしこれはこれで快適だ。地図に「宮の台展望台」というスポットが紹介されていたので写真を撮りに寄ってみた。遠くのサロベツ湿原も一望できて見事な景色だ。海も空も陸も美しく飯も美味いとなるといよいよ勝ち目がないな。

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宗谷岬にはすぐ南にある牧場を経由して向かうことにした。四国カルストでも牛は見たが、北海道は比べようもないくらい牛が飼育されている。それにとんでもない数の牧草ロールを見た。遠くから見るとマシュマロみたいだが、実際は高さが2m位あるので投げつけられたらたぶん死ぬ。

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牧場からは風車郡も見える。クリーンエネルギーの代名詞みたいな風力発電だけど、風車のそばまで行くとゴウンゴウンとモーターの音が響くのであんまり居心地は良くなかったりする。しかし大きなプロペラが回っていること自体がカッコいい。

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牧場の高原を降りたらそこは宗谷岬だった。「日本最北端到達」の実績はこれで解除された。北海道行き自体も適当な決定だったし、宗谷岬を目的地にしたのも「一応行くか」程度のスタンスだったので達成感はまるでないが、道中が楽しかったのでこれで十分だ。旅は移動中が一番楽しいというのは小学校の遠足の時から変わらない真理だと思う。

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家族に写真を送るために一応自撮りも済ませた。自撮り棒ではなくセルフタイマーを使うあたりが痛々しい。それに構図も服装もめちゃくちゃだし、1ミリも楽しそうに見えないが、家族に無事を知らせるにはこれで十分だということにした。

写真を家族のグループラインに送ってバイクに戻ると、そこには留萌で会った静岡のおじさんがいた。「君のカブ速いねえ」じゃねえよ。この再会をどう受け止めたらいいんだよ。おじさんは釧路方面へ向かうという。私は適当にキャンプすると言って別れた。流石にもう会うこともあるまい。

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運命的再開を果たして時刻は午後3時半。キャンプ地をどこにするべきか考えねばならない。稚内にするか、海沿いを時計回りに進んだ先にするか。宗谷岬についた時点でこの日の走行距離は350キロを超えていたが、せっかくなので行けるところまで行くことにした。

今回の宿泊地は浜頓別町の「クッチャロ湖畔キャンプ場」。湖畔でキャンプとはさぞ風流だろうと思って向かってみたら到着がチェックインギリギリになってしまったが、それでも日没は拝むことができた。まさか予定していたキャンプ地から260キロも先の場所でキャンプするとは。予定とはなんぞや。

さてテントも建てたのでとりあえず買い出しと給油に出る。キャンプ飯が楽しいのはわかっているが、正直なところ北海道においてはセイコーマートに食を委ねたほうが楽だし美味い。このせいでご当地グルメをガンガン無視することになるのだが、こればかりはしょうがない。だって温かいご飯が目の前にあるんだもの。そりゃ食うよ。

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なんとなく動画まで作ってしまった。編集は難しいしやっぱり宗谷岬は遠い。

 

<続き>

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舞鶴から小樽へのフェリー。静かにわくわくする時間。<北海道カブツーリング1日目>

<前>

朝8時。微妙に狭いベッドで目を覚ます。わずかに聞こえるエンジン音と振動。でも疲れていれば快適に眠れるものだ。風呂の支度を持ってロビーに出るとテレビで船の現在位置を表示していた。おおむね佐渡島の北北西約150キロにいるらしい。もちろんスマホを見ても圏外なので電源は切ってしまった。

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船の大浴場からは日本海が見えた。誰もいなかったので素早く写真を撮ったが、結局僕が風呂から上がるまで誰も来なかったので風呂場と日本海を独り占めにしながらの朝風呂を楽しめた。湯船が少し左右に揺れていてさすが瀬戸内海とは違うなと思った。だが時化の日の風呂はどうなるんだろう。みんなシャワーだろうか。

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風呂から上がって船尾のデッキで体を冷ます。雲一つない青空と船以外何も浮かんでいない日本海が見事だった。船はおよそ時速50キロで進んでいるのでそれなりに風は強いけれど風よけの内側にいればのんびり潮風を楽しむことができた。9月の上旬なので気温はまだ高いはずだけれど、海を見ていればそんなこと気にならない。

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適当に海を眺めてから船内に戻り、ツーリングマップル蛍光ペンをもって旅程を考える。フェリーの到着は夜10時頃なので、到着地の小樽か札幌のネカフェで休めばいい。問題はそれからの予定だ。とりあえず北に行くことにした。ハチクロの竹本君が確か自分探しで宗谷岬に行っていた気がする。地図には小樽から札幌、宗谷岬まで線を引いた。ツーリングマップルでは「オススメだよ!」という道は太く塗られているのだけれど、蛍光ペンはほとんどその上を走っていた。

宿は基本的にキャンプだから行程に合わせて選べばいい。湖のそばにキャンプ場が置かれている傾向があるので、めぼしいところにマークを入れておいた。北海道のキャンプ場は数百円から無料のところが多く、Gotoキャンペーンどころのお得さではない。それにシーズンオフの平日だからサイトが埋まってることもないだろう。

それから事前に行こうと思っていた旭山動物園タウシュベツ橋梁に印をつけて、宗谷岬からそれらを巡る道に線を引いた。これで札幌の朝から3日分の旅程が組めた。1日の走行距離は大体400キロから250キロ。経験則的には1日の走行距離は最大でも250キロにしないとただ1日走るだけになってしまうと分かってはいたが、北海道を走ることが目的なのでもうこれで良いだろうという結論に至った。走行距離や出発時間の計算には地図アプリが必要なのでこれ以上考えても仕方がない。ただ給油ポイントだけはきちんと押さえておいた。カブには4リットルしかガソリンが入らない。いくら燃費が良いとはいえ200キロごとに給油しないと詰むのだ。

行きたいところに行くためのルートは組んだので船室に戻り地図をカバンに詰めてゴロゴロしていると「レストランで昼飯が食えるぞ」という船内放送が流れてきた。コンビニや売店で買い込んだ食料はあるけれど、こういう時にケチっても楽しくないのでいそいそとレストランへ向かう。丼か麺類かカレーというシンプルなメニュー大系だったのでとりあえず豚丼を食べた。帯広では豚丼を食えと地図にも書いてあったので先走ってしまったが美味しかったので問題ない。ご当地グルメに全く関心がなかったので教えてくれたことに感謝したいくらいだ。帯広に寄ることがあればまた食べてみよう。

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お昼を食べ終えても到着まであと9時間はある。ずっと海を見ていてもしょうがないし先の行程も決まりそうにないので再びベッドでゴロゴロして過ごす。少しだけ昼寝をして時々船内を散歩していたらいつの間にか夜になっていた。売店でフェリーのステッカーと「みそぱん」なる謎の菓子パンを買った。この「みそぱん」が妙に美味しく、かつ保存も効くようだったので四切れのうち一つだけ食べてあとの三切れはクーラーバッグにしまっておいた。まさかこれが後々活きてくることになろうとは。

午後9時過ぎに「そろそろ上陸するよ」というアナウンスが流れたので他のバイク乗りたちと一緒に車両甲板へと降りて上陸の準備。自転車を除けば他のどのバイクより自分のカブが一番小さかった。とはいえ一番可愛いのがうちのカブだという事実に変わりはない。隣の芝生は青く見えるが自分の芝は黄金色なのだ。船のハッチが開き甲板員が点々と並んでバイクを誘導し始めた。船内をできるだけゆっくり走り、慎重にタラップを降りる。これで一応北海道に上陸したらしい。ほんとか?しかし確かめようにもスマホの電源はまだ切ったままだった。

 

<続き>

 

今日は仕事が終わり次第北海道へ行こう<北海道カブツーリング0日目>

遅い盆休みを9月に取った。しかし特にやりたいこともないまま9連休前日の朝を迎えた。ああどうしたものかと考えながら、出勤中のバスの中で、その日の夜に出る舞鶴発小樽行きのフェリーを予約した。さて今夜から北海道ツーリングへ出ることになったぞ。しかし北海道に対する思い入れは全くない。国とワリカンで旅行に行けるのだから行ってみるか、ぐらいにしか考えていなかった。

仕事を終えて家に帰り、粛々と荷造りをして舞鶴港へ走った。テント、コット、キャンプ道具を入れたコンテナを荷台に縛り付け、着替えやカメラなどの旅道具はリュックに詰め込んだ。旅道具はほとんど最適化してしまったから道具選びに迷うことはないれど、普段持たないガソリン携行缶を念のために持っていくことにした。自宅から舞鶴港まではおよそ100キロ。下道で3時間。舞鶴のコンビニで乗船中の食料を買い込んで、クーラーバッグはコンテナにつけたフックにぶら下げた。

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フェリー乗り場には確かに船が泊まっていた。昼間の舞鶴にはよく訪れていたので舞鶴港から北海道に行けることは知っていたものの、まさか無計画に北海道に行くことになるとは。6月の四国行きの時に使ったオレンジフェリーでは数台しか見かけなかったバイクも、今回は20台ぐらいに増えていた。Gotoのおかげか、もしくは北海道のポテンシャルなのか。

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ツーリングのルートや目的地は片道20時間のフェリーの中で考えることにした。ツーリングマップルの北海道版は以前に買っていたのでリュックの底に詰めてある。パラパラと眺めてみると景色が良いのは確からしい。景色が良いところを走れば北海道に行った甲斐を見つけられるかもしれないし、そのために1000キロの海路を渡るのも悪くないかもしれない。

本やネットで「北海道はライダーの聖地」みたいな言葉もちらほら見受けられるけれど、担ぎ上げるような言葉は使いたくないので、北海道のことはとりあえず「走っていると良い景色が見られるところ」ぐらいに留めておく。

それにここで過度な期待をするべきではない。もしかするとバイクで船に乗る行為そのものの方が楽しいかもしれない。何せバイクで大きな船に乗り込んでいくのだ。広い駐車場で整列し、順番にタラップを走り、甲板員の誘導で手際よくコンパクトに駐車されていく。これに勝るエンタテインメントはそうそうあるものではない。今回も青色の誘導棒に従い綺麗に駐車することができた。ただの駐車なのになかなかどうして心が躍るではないか。

仕事終わりに夜道を走って夜行フェリーに乗り込むのはさすがに疲れたので、さっさとベッドメイクをして寝ることにした。海自の動画でマットレスを半面外してからシーツを被せると素早く綺麗に仕上がると聞いたので早速実践してみた。ここでの作業が今後20時間の居住性を左右するので普段の仕事より集中してシーツを張った。終わるころにはフェリーは離岸して舞鶴湾を出ようとしていていた。「なんで北海道に行くんだろう」と思ったが、いよいよ取り返しはつかない。真っ暗な海を眺めながら買っておいたビールを開けてちーかまを食べる。3本入りだと思っていたちーかまが実は4本入りだったのでなんだか得した気分になった。北海道って遠いんだなあ。

 

 続き

 

涼宮ハルヒの新作だぞ、ゼロ年代のオタクども、目を覚ませ、思い出せ

ゼロ年代のオタクはみんな涼宮ハルヒに没頭していた。クソでかい主語と一方的な決めつけだけど、思い出補正も入っているだろうけれど、もう没頭していた日々から10年近く経てばこれぐらい言い切ってしまっても文句は言われまい。

アニメ版「涼宮ハルヒの憂鬱」が放送されてから僕らのオタク生活は瞬く間に「ハルヒ」に席巻された。友達とハレ晴レユカイを踊った。God Knowsでギターに憧れた。ちゅるやさんにょろーんした。毎日ニコ動でMADを漁った。エリア外だったアニメの放送をどうしてもリアルタイムで見たくて、映らないはずのアナログ放送のチャンネルを無理やりKBS京都に合わせて、半分砂嵐になったハルヒを見ていた。

ゼロ年代の、そして僕の高校時代のオタクカルチャーのほとんどが涼宮ハルヒだった。

そしてラノベの続きを心待ちにして、しかしいつの間にか期待が諦めに変わって、没頭していた日々はついに思い出の一つになっていた。思い出は変わらない。あの日々は楽しかったし、新作はきっともう出ないだろう。期待してもしょうがない。そう思っていた。そう思っていたのに。

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kimirano.jp

ああ!あああ!涼宮ハルヒだ!長門有希だ!みくる先輩だ!鶴屋さんだ!やれやれ!何年かかったと思ってるんだ!俺はもう30歳だぞ!ラノベは何年も前から実家のダンボールの中だ!高校時代の!大学時代の思い出と一緒にすべて実家の押し入れに入れてきたのに!お前は!今になったまた現れるのか!また夢を見させてくれるのか!?

嬉しさ?懐かしさ?いやそういう感覚じゃない。もっと大きな感情が自分の中にある。「涼宮ハルヒが読みたい」ただそれだけの願いが、叶うことはないだろうと思っていた幻が、10年以上経って思い出の氷の中からいきなり現れた。受け止めきれない現実は、いつの間にか涙になっていた。待つことさえ忘れていたのに、それでも涼宮ハルヒが帰ってくる。

当然10年の月日は長い。大抵の人がそうであるように、僕も色々と変わってしまった。しかし涼宮ハルヒのいる日々はきっと何一つ変わっていないんだろう。そこにはちょっとした恐ろしささえある。読みたいような、読みたくないような。 しかし、きっと僕は読むだろう。そして飛び出してきた思い出と一緒に溺れることになるだろう。そこだけは高校生だろうと30歳だろうと、変わることのない自分らしさの一つであるからだ。涼宮ハルヒの思い出と一緒に、そんな自分らしさの一片を思い出していた。

 

焼き肉は、受験と同じ、団体戦

立秋を過ぎて今は処暑というらしい。だからと言って暑さが和らぐわけでもないのでエアコンの設定は変えようがない。在宅中は常時エアコンをつけているので夏の電気代は約1万円ほどかかるが、命にかかわるのでこれはやむを得ない支出と言えよう。

先日何も考えずに焼肉の食べ放題に行ってしまった。だがそれほど肉を欲していたわけではない。ひょっとしたら無意識的に必要だと考えていたのかもしれない。プロテインたんぱく質より牛タンのたんぱく質の方が上質かもしれんしな。

一人で焼肉をすると、焼くのと食べるのと注文するのとで大変忙しい。焼きながらメニュー表を見て。ハイボールを飲みながら注文して。食べながら空いた皿を片付けることになる。めんどくせえから焼いた状態で出してくれないかとさえ思う。客が誰もいなかったのでわんこそばのようなスピードで肉がやってくるのがおもしろかった。

いい歳なので限界の一歩手前で箸を止めて店を出たが。あと3切れホルモンを食べていたら胃もたれと後悔に潰されていたかもしれない。無難に勝利を収めることができたのも経験によるところが大きい。着実に勝ち点を稼いでいくプレイスタイル。勝ち点の意味は分からないし、わざわざ焼き肉にした意味も結局分からないままだった。

食に無頓着になっているということは、欲求は十分に満たされていることだろうか。腹の肉をつまむと、「満ちてるどころか溢れてるじゃねえか」と叱られた気がした。とはいえ地域によってはそろそろ稲刈りが始まる季節だ。現実を見ている暇はない。